四竜帝の大陸【青の大陸編】
「着替えてきたぞ。ん? りこ、どうかしたのか?」
 
どうやら数分間固まっていたらしい私を腰をかがめて覗きこみ、魔王様は仰った。

「黒い服にしたから怒ってるのか? だが、だがな! 我はりこの色がっ、りこが大好きなのでだな! その、あのっ」

チャイナ服に似た黒い長衣は銀糸で細やかな刺繍が施され、すっきりとしたデザインでハクちゃんに似合っていた。
ハクちゃんは私に伸ばした腕を寸前で止め、その白い手を……。
にぎにぎ・にぎにぎ・にぎにぎにぎにぎ。

「りこ……さ、触っていいか? 我はずっと竜体だったので……この手でりこに、触りたくてだな!」

にぎにぎする手と、冷たい美貌。
やっぱり、ハクちゃんは人型の時も格好良いより可愛いが似合ってるのかも。

「うん」

にぎにぎする手に、私は自分の手を添えた。

「私はハクちゃんの妻なんだから」

ハクちゃんはゆっくり手を開き、指先で私の頬にそっと触れる。

「そうだ。りこは、この我の愛しい妻だ」

そう言って、おでこにキスをしてくれた。

「……」

むふふっ。
なんか、こういうのって照れるけどそれ以上に嬉し……。

「そうだ、りこ。なかなか良い感じの寝台があったぞ。体調が良いなら昼寝は中止して、我と交わらぬか?」

はい?

「ま、まままっ交わるっっ!?」
「? 我と交尾をしようと言ったのだが?」

こ。

交尾ぃいいいっ!?
ハクちゃん、貴方それってつまりセッ……しようってことでしょうっ!?
あまりに直球すぎませんか、それ~!!

「ス、ストッープ! 取りあえず、温室で昼寝しましょう!」

唇を額から目元に移し、舌先で目の際をなぞり始めたハクちゃんの顔を、私は両手で押さて押し戻した。

「りこ?」
「えっと、その、温室をもっと見たいかなって……」

さ、さすがにちょっと。
今すぐここでいたすのは……嫌とか、したくないとかじゃなくてっ、なんというか、そのっ!
こう、もっとちょっとさり気な~く誘ってくれると……うううっ~ハクちゃんって、内臓の涙が出ちゃうくらい繊細なのに、重要な場面でデリカシーが無いのよね。

「ふむ。りこは鍋も温室も好きなんだな。……共通点は暖かさか?」

1人でぶつぶつ言っているハクちゃんの謎めいた思考回路には触れずに、私はダッシュで寝室に入り、お昼寝に必要だと思われるものを集めた。

「ハクちゃん、先に温室に行ってるよ!」

それを抱えて、速やかに退却した。


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