四竜帝の大陸【青の大陸編】
ダルフェが夕食を持ってくる前に起きたりこは。
酔いは醒めているはずなのに。
衣服の隙間からかすかに見える首まで赤く染め、金の瞳を潤ませて。
視線を我からそらし。
我の身体に回した腕に力を込め。
消え入るような。
震える小さな声で言った。

「私っその、あの……ハクちゃんが、えっと、イヤじゃなかったらね? さ、さっきの続きをっ、そのぉ……だ、駄目かな?」

続き?
さっきの続き?
泥酔の?

意味を判断しかね、首を傾げた我を。
りこの眼が不安げに見上げる。

「やっぱり、怒ってるの? あきれちゃった? ……ふうぇっ」

 見る見るうちにかさを増した涙に、我はあせってしまい。

「お、怒ってなどいないぞ? 素晴らしい頭突きであった! りこは凄いな、さすが我のりこなのだ!」

りこは一瞬固まり。

「頭突き? ぶっつ……!」

笑った。

りこが笑うと、我は嬉しいのだ。
とても。

「……えっ? うわっ!」

りこが我を見、笑いを止めた。
む?
なぜだ?

「ハクちゃん、今……今っ!」

我の頬に小さな手を伸ばし。

「わ、笑って……微笑んでたよ?」

柔らかな手のひらで。

「一瞬だけど。すごく、優しくて綺麗だった」

そうか。
笑えたのか、我は。

「そうか。りこのおかげだな……りこ、笑えた我にご褒美の‘ちゅう’をしてくれ」
「ふふっ、ハクちゃんがちゅうって言うとなんか変。えっと……眼、つぶっててね」
 
りこの唇は温かく、柔らかで。
触れるだけの口付けも。
我の心を満たしてくれる。
あぁ。
我は今も、微笑んでいることだろう。

「私……ハクちゃんが大好き。好き……好き、好きなの」

りこは何度も‘ちゅう’をしてくれた。
眼をつぶれと言われてたので、ばれぬようにそっと薄目を開けて。
我に‘ちゅう’するりこに見惚れた。
染めた頬、硬く閉じた目蓋。
羞恥の為か、眼を閉じた可愛らしい妻に我の表情が見えるはずもなく。
確認してもらえなかったが。

きっと、微笑むことが出来ている。
 
我の笑顔も、涙も。
全てりこのものだ。
 
鼻血も、内臓も。
髪も鱗も。
我の全てを捧げよう。
 
「りこ……うむ、‘ちゅう’はいい……」
「……ハクちゃん、ちょっと。これ、なにっ!?」

 りこは‘ちゅう’の余韻に浸っていた我の髪を掴み、ひっぱった。

「靴を履いたまま布団に入っちゃ駄目! 私のは脱がしてくれたのに、どうして自分はそのままなのよ? もうっ! ごめんなさいはっ!?」

靴のまま寝台に入ったと、りこに怒られた。

「ご、ごめんなさい」

この我に、ごめんなさいをさせるとは。
うむ。
やはり、我のりこは凄いのだ。
 


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