四竜帝の大陸【青の大陸編】
「これ、こないだ食べたね……カチの実?」

果物の盛り合わせの中に、見覚えのあるものを見つけた。
形は苺で色は紫の……。

「りこが気に入ったようだったので、ダルフェに言っておいた」

ハクちゃんは長い指でカチを摘まみ。
私の口に、ころりと入れた。
噛むと、果汁があふれ。
なじみのある味が広がった。

「美味いか?」
「うん……うん、とっても美味しい」 

カチの実は。
巨峰の味に似ているの。
こっちに落とされた日は。
晩御飯の後に家族揃って、テレビでお笑いを見た。
3日前に買ったばかりの地デジ対応の薄型テレビ。
家電好きなお父さんが、2ヶ月かけて選んだ機種だった。
週末にDVDをレンタルしてくるって、妹が言ってたっけ。
お母さんがデザートですよって、立派な巨峰を出してきた。
いっぱい取り寄せたから明日、お姉ちゃんのマンションに持って行くって。
『りこちゃん、明日車を出してね』って言った。
お母さんは免許が無いから、私がいつも運転手。
私はお気に入りの芸人さんを観ながら適当に返事して。

「……っ」

コンビニで買った杏仁豆腐を食べてたから、巨峰は食べなかった。
 
食べておけばよかった。

巨峰。
いっぱい、食べておけばよかった。

「りこ?……りこっ!」

ああ、今日は泣いてばっかりだ。
ごめんね、ハクちゃん。
ハクちゃんは笑ってくれたのに。

「ふぇぐっ……私、ご、ごめっ」

ハクちゃんは何も言わず、私を抱えて居間に行き。
ソファーに座って。
私を膝に乗せて。
広い胸に引き寄せて。
背中をゆっくりと撫でてくれた。

何も聞かず、そうしてくれた。
こういう所は。
やっぱりハクちゃんは大人で。
私は甘えてばかり。

26なのに、大人の女性になれなくて。
貴方に、こうして寄りかかってばかり。  
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