四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこ。我はりこが泣いてるのに、どうしたらその涙を止められるのか分からない」

ハクちゃんは背を撫でていた手を止め、言った。
深く響く、艶のある声は抑揚が無く平坦な口調だけど。
私の身体の奥の奥まで、染み入るようだった。

「慰めたいのに、どうしたら良いか判断できず、気の利いた言葉の1つさえ出てこないのだ。背を撫でる事も、抱っこも……りこの行動を模倣したに過ぎない」

大きな手が、私の頬を包み込む。

「りこが我にしてくれた時、心が落ち着き気持ちが良かった。だから真似ている。我は……腕の中で愛しい妻が、悲しげに泣いているというのに」

人のそれと違う真っ赤な色をした舌で、顎先から目元まで涙を追っていく。

「涙を見て咽喉の渇きを感じ、こうして舌を這わしてしまうのだ。りこが悲しんでいるのに、その悲しみの感情を理解せず。涙の甘さに心奪われ、もっと欲しいと……獣のように浅ましく、逃げ出したいほど情け無い」

ハクちゃんは私の頬からそっと手を離し、私を長い腕で囲い込むように抱きしめた。

「泣かせたくないと思う心に、嘘はない。慰めたいと感じるのも……信じてくれ。我はりこの心を護れるように、りこの悲しみが分かるようになりたいのだ」

ああ。
やっぱりハクちゃんは、すごい。

家族を想い、悲しみに沈んだ私を。 
引き上げ、捕らえ。

「ハクちゃん、ねえハクちゃん。貴方が望むなら涙なんていくらだってあげる。血も肉も、飲まれたって食べられたっていいの。うん、痛く無いようにしてくれるならね」

ハクちゃんの髪を掴み顔を引き寄せ、金の瞳を覗き込んだ。

「いっぱい話そう。お互いのこと、もっともっと知ろうよ。ね、私が泣けるのはハクちゃんがいてくれるからなの。だから安心して、甘えて泣いちゃうの。これからも泣いちゃうことたくさんあると思う。そういう時は……こうしていてくれれば十分。言葉がなくても、いいの」

側に居て。
抱きしめて。

私を、抱きしめて。
< 258 / 807 >

この作品をシェア

pagetop