四竜帝の大陸【青の大陸編】
~おまけの小話・ハクちゃんの秘密<後編>~
(*セイフォンの離宮にいた時のお話です)


ダルフェは我がむしった鱗と剥がした爪を拾い集め、デルの木の根元に埋めた。

「不毛な自虐行為はやめましょうや。姫さんが知ったら悲しみますよ?」
「なぜ、りこが悲しむ?」

ダルフェは土の付いた手を掃いながら言った。

「相変わらず使えない頭っすね」
「使えない?」

ますます分からなくて首をかしげた我の隣に、ダルフェは腰を下ろした。

「あの姫さんは感性がずれてるっていうか、なんというか。不思議な事に、旦那の竜体に惚れ込んでますからねぇ。傍から見ると、ちょっとやばいくらいあんたの竜体に執着してます」

そんなこと、分かっている。
だからこの姿でいるのだ。

「りこは鱗が好きなのだ」

ダルフェは額を押さえた。

「まあ、鱗趣味はおいといて。姫さんは旦那を好いてます。雄としての認識はないとしてもね。だから旦那がこんなことしてたって知ったら、泣きます。絶対に」

我は焦った。

「り、りこが泣くなど駄目だ! りこは我の宝物なのだぞ!? りこを泣かせるなどっ」
「じゃ、練習しましょう。ラパンの硬さがちょうどいいっすから」

む?

「姫さんを傷つけないで、触る訓練ですよ。俺、天才! さっそく今夜からしましょうねぇ」

なんだか良く分からぬが。
りこに触れるように、我はなりたいのだ。

「やる」

待っていてくれ、りこよ!
必ず成功(?)させてみせるぞ!

「姫さんには秘密で頑張りましょうぜ、旦那。ある日突然、優しく手を握り、指に接吻して甘い言葉を囁くんですよぉ! これで姫さんは落ちますって」
「そうなのか?! ダルフェは物知りなのだな」

感心した我にダルフェは言った。

「俺は<これで貴方もモテ男! 月刊・恋愛サバイバル>の購読者ですからねぇ。任せてください!」

意味がさっぱり分からんが。
こやつも妻帯者だから、女心には詳しいのであろう。

数日後、りこは我に問うた。

『ねえ、ハクちゃん。最近、ダルフェさんが作るお菓子って同じ果物ばかり使ってるよね? お買い得だったのかな。安くて美味しいなんて、いいよね! なんていう果物か知ってる?』
 
違うぞ、りこ。
ラパンは高級品なのだ。
庶民は一生見ることさえないような果物なのだ。
時期はずれで、入手困難な貴重品だ。 

「あれは、それはっ……」

<青>の会社の力でダルフェが買占め、此処に集めている。

「ラパンだ。よく使うのは……旬だからではないか?」
『ラパンっていうの。美味しいね』
 
ラパン。
それは秘密の実。
 
『どんな実なのかな? いつも刻んであったりペースト状のものが厨房にあって、原型を留めてるのが見当たらないのよね』
「そ、そうなのか?」

甘酸っぱい、秘密の果実。
 
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