四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこ?」
「え、あ、ごめんね。ちょっとぼーっとしちゃった」

背後の壁に寄りかかって腕を組み、私のやることを観察していたハクちゃんは。

「りこは物価について興味があるのだな。ふむ、市街を見に行くか?」

素晴らしい提案をしてくれた。
 
「はい! 行きます、行きたいです! でも、いいの?」

セイフォンでは離宮から、一歩も出してくれなかった。
ハクちゃんは自分以外の男の人を嫌がるから、語学の先生選びも苦労したし。
帝都のお城に着いてからだって、竜帝さん以外の帝都の人には1人も会ってないどころか、見かけても無い。
完全にハクちゃん、ううん、私の周りから人が排除されてた。
廊下だって避けて、術式での移動しか……。
ハクちゃんに嫌な思いをさせてまで‘外’に出たいとは、思わない。

「良い。今のように、りこに笑って欲しいからな。我は世界一りこ好みの男な上に、りこの自慢の夫なのだろう? つまり、りこは我以外の男に興味が無いということだ。雄が一定範囲以上接近したら蹴り飛ばし排除すれば良い」

さ、左様でございますか。
人ごみは無理だね、うん。

「お、穏便にお願いします」

でも、お出かけがすごく楽しみです!
やっぱりハクちゃんはなんだかんだいっても大人で、私に優しい。
うん、自慢の旦那様です!

「ありがとう、ハクちゃん」
「うむ」

さあ、洗い物しましょう!
離宮や駕籠の流し台に比べて、ここは低いから踏み台はいらな……う、ぎりぎりだ。
愛用の踏み台は……。
踏み台が見当たらない。
まだあの駕籠の中?
明日、ハクちゃんに乗ってきた駕籠に連れて行ってもらおう。

「ま、なんとか届くし。よいしょっと……きゃっ!?」

いきなりガシッと腰を掴まれ、足が宙に浮いた。

「ハ、ハクちゃん! びっくりしたよ、もうっ」

振り返るとすぐ側に、作り物のような完璧な顔。
無表情なのに、私を見る眼の色はどことなく嬉しそう。
ハクちゃんは目元も全く動かないけど、眼が……目玉というか眼球というか、その部分に感情が滲む。
他の人には分からないかもしれないけど、私にはなんとなく伝わってくる。
自分でも不思議だけど。
還暦迎えた夫婦なら、長年の経験で分かっても不思議じゃないと思うけれど。
竜体で出会った時から眼を見て、彼の感情を大まかに察っする事ができてたし、これはつがいだから?
人間の夫婦とつがいって、もしかして根本的に何かが違うの?

「高さは?」

あ、はいはい。
まずは洗い物ですね。

「もっと降ろしてくれる? この台に私のおへそがくる位でお願いします。それと密着やめて。気になってお皿割っちゃいそう」
「そうか? 安定するかと」
「と、とにかく! 腕、かるく伸ばす感じでお願いします!」

ああ、もう察してよぉお~!
密着したら、いろいろ恥ずかしいこと思い出しちゃうんですってば!
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