四竜帝の大陸【青の大陸編】
「わかった、これでいいか? りこ」
「うん! ありがとう、丁度いい……ん?」

ふと、窓ガラス見るとそこには……。
背の高いハクちゃんに大きな両手で腰を掴まれ、流しに突き出され足をぶら~んとしながら食器を洗う、おちびな私。  
まったくの無表情で、私の手元を眺める魔王様。
新婚夫婦らしい甘さは皆無な光景。
とても夫婦には見えない。
第三者から見れば捕獲された宇宙人が皿洗いしてるみたいよね、きっと。
うん、決めた。
朝一で、踏み台を取りに連れて行ってもらおう。
朝食後もこんなことになったら、恥ずかしいを通り越して情け無いもの。

「うむ。我もりこの役に立てて、良い気分だな。今後は我がこうして‘お手伝い’をしてやろう」

お手伝い?
食器運びとかは、見てるだけだったのに~!
なんでここで、お手伝い心が出ちゃうのぉ?
ああ。
眼の色が移るより、身長を分けて欲しかったかもっ。
 
「あ、ありがとう。ハクちゃん」

あと10センチ……5センチでいいんだけど。




食器を洗い、すべて備え付けの食器棚に戻し。
お風呂に入る事にした。
私はこの世界に来てから、早寝早起きになった。
時計は字が違うけど、同じように目盛りが付いてるので私にも分かる。
だいたい8時前に寝て、5時半くらいに起きている。
受験生のように、『朝勉』を私は日課にしていた。
離宮では7時過ぎるとカイユさんが来るから、語学の教材(絵本だけど)を見たりハクちゃんとおしゃべりしていた。
明日はハクちゃんがいいって言ったらお庭を散歩して、それから朝食にしようかな。

「さあ、お風呂入って寝ようっと! あ、ハクちゃんは竜体に戻ってね」

ハクちゃんは支店を出てからお風呂に入ってなかったから、今夜はゆっくりお湯に浸かって身体を休めてもらわなきゃ。  

「……竜体……」
「じゃ、先にいってるね」

私はハクちゃんを残して、先にお風呂に向かった。
脱衣所と思われる空間の広さに少々びびりつつ服を脱ぎ、浴室をおそるおそる覗いた私が見たのは。

「わ……あれ?」

真正面に見えた湯船は、小ぶりなプールのような大きさ。
白濁したお湯が動物の顔をした注ぎ口から、勢い良く溢れている。
獅子タイプではなく顔は猫科なのに耳が象の耳で、額から角が生えた謎の生物だった。
全体の面積の4分の3は湯船。
身体を洗うスペースはそんなに広くない。

「これじゃあ、大人数は入れないね。せっかく湯船は広いのに」
「りこと我以外は使わんから、問題ないのではないか?」

竜体のハクちゃんはとてとてと濡れた床を走り、お湯を覗き込み言った。

「帝都は火山帯にあるので湯は温泉なのだ。りこは温泉が好きだと前に言っていたな? 良かったな、りこ」

そのまま頭から一切音をたてずに、すべるようにお湯に入っていった。
そして、消えた。
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