四竜帝の大陸【青の大陸編】
りこを残し、電鏡の間に転移すると。

「おはようっす、旦那ぁ」

ダルフェが居た。

気だるげに右手を挙げた<赤い髪>は。
迷いの無い歩みで北側の壁から、漆黒の覆いを剥がし。

「よいせっと」

その布を、無造作に床へ投げ捨てた。
南の壁には真紅、西には黄の覆いがされている。
それぞれの竜帝の気に合わせて調整された壁一面程もある大型の電鏡。
我がこれを前に使ったのはいつだったか……。

電鏡の性能を上げる特殊な岩盤を資材に用いた狭い部屋。
照明も窓も一切無い。
漆黒の闇。
それが電鏡の間。
このような陰気な場所に、我の宝を連れてくる気にはならない。
我やダルフェは暗闇も視えるが、人間のりこにとっては恐怖心すら感じるであろうこの闇は。

「旦那、爺さんに会うの久しぶりでしょう? どのくらいぶりですか?」」
「89年だ」

我のりこには、似合わない。

「おーい、黒の爺さん。旦那が来ましたよぉ~」

ダルフェが電鏡をつま先で軽く蹴った。
鈴の転がるような音が、微かに響く。
 
「お久しゅうございます、ヴェルヴァイド」

背の曲がった老人が電鏡を背に、揺らめきながら現れ。 
深い皺に覆われた顔は、前に見た時より小さくなっていた。
顔だけでなく。
全体が小さくなり、まるで人間の老人のようだった。
違うのは、その髪の色。
人間は老いると白髪になるが。

「また、萎んだな。<黒>よ」

<黒の竜帝>は髪だけは幼竜の時から変わらない。
艶のある漆黒の髪。
老いた現在は身長より、髪のほうが長かった。
簡易な作りの黒衣の合わせ目から覗く肌は土色で、袖から出た手首から下は枯れ木のようだ。
寿命に従い、これも土に還る。
そして新たな<黒>が、どこかの雌の腹に【発生】する。

「ふふっ……貴方は初めて会った時から変わりませんな。しかし、それを羨ましいとは思いませんよ、永遠などという地獄に堕ちる勇気は小心者の私には無い。……地獄へ道連れ予定の花嫁は、ここにお連れにならなかったようですな? 悪魔に捕らえられた哀れな姫君に、お会いしたかったのですが」
「………」

人間共が願い乞う<永遠>を地獄と言い切るお前も、この我を悪魔と言うのか。


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