四竜帝の大陸【青の大陸編】
<黒>の言葉に反応したのはダルフェだった。

「言葉に気をつけろ、老いぼれがっ! てめぇ、ぶっ殺すぞ! 姫さんは地獄に堕ちたりしない、幸せになるんだよ!」
「おや、居たのか? <赤い髪>の坊ちゃん。今の私なら坊ちゃんでも殺せるだろうな。ふふっ、どうぞ、ご自由に」

おどけた様に言う<黒>に、ダルフェが猛獣のように唸った。
<黒>が居るのは別の大陸だ。
妊娠中のつがいに縛られた雄竜は、雌から遠く離れることは本能が拒む。
つまり<黒>殺すのは不可能だ。
<黒>は全て分かって、からかったにすぎない。

この<黒>は。
四つんばいで歩いていた頃から、捻くれていた。
どんなに捻くれた性格だろうと我には関係ないので、注意したことは無い。
諌めてくれと黒の一族に散々乞われたが、無視した。
放っておけばいずれ死んで、代替わりするのだ。
竜帝の性格が良かろうが、悪かろうが。
我は全く気にならん。

「<黒>よ。我はつがいを得て、非常に忙しい身なのだ。さっさと用件を言え」

りこを待たせているのだ。 
あそこなら安全で、りこの暇つぶしにもなると思い。
我が思うに。
りこは植物観察が好きなのだ。

価格調査も好きらしいので、市街に価格調査“でぇと”に行くことにした。
我の提案を、とても喜んでくれていたな。
良くやった、我よ!
賢くなった証拠だな。

「貴方から‘忙しい’などという言葉が聞けるとは。先代達への良い土産になりますな」

死に片足を突っ込んでいる老竜は。
皺だらけの顔をさらに皺を刻み、嬉しそうに笑った。

「お察しの通り、私は死期が間近です。次の<黒の竜帝>が最も若い竜帝になります。古き盟約に従い<青の大陸>から<黒の大陸>にお移り下さいませ……奥方様と共に」
「それが本題では無かろう? 言え、ベルトジェンガ」

りこを連れ、大陸を移る場合の手筈を整えねばならんな。
安全で、負担の無い。
最良の手段を。

「はい、ヴェルヴァイド」

芝居がかった動作で頭を下げた<黒>は、ゆっくりと顔を上げた。

「一点は術士による『珠狩り』の発生と被害の拡大。これにつきましては<青>より資料が渡っておりますな?」

我にとってはどうでも良いことだが。
竜族にとっては死活問題だからな。

「道中の支店で確認した。我はこの件には興味が無い、関わる気も無い。お前達でなんとかするんだな」



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