四竜帝の大陸【青の大陸編】
「騒ぐな、雌蜥蜴! 雄を呼ばれちゃ困るんだよ! 雄竜はつがいの雌の事となると、とたんに凶暴化するからな」

叩かれたんだ。
頬を。

嘘。
なんで?

「この大蜥蜴の巣から逃げるには、幼竜か雌を盾にするしかねえんだよ!」

蜥蜴……巣?
この人、何言ってるの?
わからない。

怖い。
頬、痛い。
掴まれた腕も、痛い。

怖い。
怖いよハ……駄目、呼んじゃ駄目!
おじさんが、危ない。
私の頬。
きっと腫れてる。
すごく熱を持ってるもの。
 
ハクちゃんは、すごく怒るはずだ。
自惚れじゃなく。
支店長さんにも言われたもの。
ハクちゃんは私の為なら、簡単に他人を傷つける。
竜帝さんの怪我だって、原因は私に関する事だった。

あの人に。
人殺しなんて、させたくない。
私のせいで、人が死ぬなんて。
 
「来いっ! 奴等が来るっ」

どうしたらいいか迷う私を、おじさんは荷物のように脇に抱えた。

「なっ!……きゃっ?」

抵抗するまもなく視界が歪み、回転する。
とても眼を開ける事は出来なくて、ぎゅっと閉じた。
頭の中がぐにゃぐにゃになり、ぐるぐる回り。
酷い眩暈と貧血を起こしたような感じになった。
  
「はあ、はあッ! ちいっ……街へ出るには、後3回は転移しなきゃ駄目だな。畜生めっ!」
 
荒い息で。
おじさんが言った。

転移って、今のが?
ハクちゃんのと、全く違う。
こんな……うっ、気持ち悪い。
吐きそう!

「や、やめて。私……うっ」

口を抑えて、足をばたばたと動かした。
自分では、かなり暴れたつもりだったけど、吐き気と眩暈と貧血でふにゃふにゃした動きしか出来きなかった。
それは、このおじさんを苛立たせただけだった。

「大人しくしてろっ、手足を折るぞ!」

私を見る血走った眼が。
おじさんは本気で言ってることを伝えてくる。
私は怖くて、動けなくなった。


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