四竜帝の大陸【青の大陸編】
『恋人同士の織姫様と牛飼いの彦星さんが、年1回だけ会えるのが七夕なの。さっきの絵本にあったような、星の川を渡って会うの』

りこが言うには、それは古い御伽噺であり。
その恋人同士はあまりに仲睦まじく、2人でいると仕事をもせず愛を語らうために天帝が怒ってしまい、年1度しか逢瀬が出来ぬようにしたのだという。

==変な話だな。しかも、男が情け無い。そんなに愛しい女なら、天帝とやらを無視すれば良いのだ。

『う~ん。彦星さんは一般人だから、神様みたいな天帝には逆らえないというか……』

りこは起き上がり、我を膝に乗せると。
温かな手で撫でてくれながら言った。

『じゃぁ、ハクちゃんだったらどうするの? 天帝……神様みたいな存在から注意されても無視あうるの?』
==無視?
 
もし。
りこと年1回しか会うななどと指図されたなら?
この世界最強竜の、我に?

==即、この爪で引き裂いてやる。我からりこを奪おうとするものは、全て処分する。

許さない。
我からりこを奪うなど。
天帝だろうと、神だろうと。
蹴り飛ばし、ぶち殺してやろうではないかっ!

『ひょぇ~そ、そっか。……うん、ありがとうハクちゃん』

拳を掲げ誓う我の頬を、りこは細い指でつんつんと突付き。

『こんなに可愛いのに、ハクちゃんって凶暴だよね~。ね、七夕は短冊に願い事を書くの。部屋に戻って、やろうよ。ハクちゃんは私より、字を書くの上達しているし』

りこは敷き布を素早く畳むと小脇に抱え、我を抱っこし部屋へと歩き出した。

==……。
 
術式を使えば一瞬だが。
我はりこに抱っこされて移動するのが、好きなのだ。
りこと出会い、好きなものがいろいろ出来た。
嫌いになったり、好きになったり。
我は、とても忙しいのだ。

寝室に戻ると。
りこは鋏みで書き取り練習の用紙を長方形に切り、我に差し出した。

『はい、どうぞ。ハクちゃんの願い事を書いてね』

我の願い?
我の願いは……。

==りこは? りこは何を願うのだ?

とても気になる。
りこの願いが。

それは我の力では叶えられぬものなのだろうか?
我は、りこの望みを全て叶えてやりたい。
家族の元に帰るという願い以外は、全て。



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