四竜帝の大陸【青の大陸編】
『私? 私は……』

りこはもう1枚、用紙を長方形に切り。
机の上で紙を1度撫でてから、迷いなく書き込んだ。
それは異界の文字。
覗き込んだ我には解読不能で、不安になった。

==りこ……これは、なんと?

帰りたいと書いてあったら、我のような竜……いや、化け物のつがいなど辞めたいと書いてあったらと。

==……っ。

濃い闇のような感情が、身体の奥底から沸いてくる。
もし、そのようなことが書いてあったなら。
我は、我は……我はりこをっ!

『こっちの文字がやっぱりわかんないから、日本語で書いちゃった。えっと、ちょっと恥ずかしいんだけど……』

りこ、我はっ!

『ハクちゃんとずっと一緒に居られますようにって、書いたの』

りこ。

『私、竜じゃないから。ハクちゃんは私をつがいにしてくれたけど、でも……ハクちゃんだっていつかは大人になって、竜の女の子が良くなって、私は、その……』

我の、りこ。

『私、邪魔したりしないから。ハクちゃんに竜の女の子の恋人が出来ても、一緒にいていいかな? 私、この世界で信用できるのは、安心できるのはハクちゃんしかいなくてっ』

我の‘つがい’よ。

『ハ、ハクちゃん?』

我はりこの手から筆記用具をとり。
りこの書いた異界の文字をなぞった。
異界の文字は<かんじ>という部分が特に細かく、難しいが。
時間をかけて、丁寧になぞって……。

==うむ。我の望みも書けた。

『……ハクちゃん』

==最後に、ここに‘ハク‘と署名して。……りこ!?

書き終わった用紙に、雨が降ってきた。

『うっ……っ』

りこが泣いていた。
用紙を見て、唇をかみ締めて。
書いたばかりだったため、りこの涙でインクが滲み。
異界の文字はぼやけて、紙に広がって……。

==り、りこ!? どうしたのだっ? どこか痛むのか? 腹が減ったのか? 

我は取り乱して、りこの顔に手を伸ばしそうになり。
慌てて手を握り、ひっこめ……むむっ?
りこが我の両手を掴み、自分の頬に……ああ、りこの涙はなんと温かいのか。

『あ、ありがと……ありがとう、ハクちゃん。私を側においてくれるんだね、私を捨てたりしないんだね。わ、私……っ』
==り……りこ。

抱きしめたい。

りこを。
この手で。

貴女を、この手で強く……強く抱しめたい。


 
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