四竜帝の大陸【青の大陸編】
「トリィ様は、今朝は御眼が腫れてたわね……夕べ、トリィ様はずいぶんとお泣きになったのね? ヴェルヴァイド様ったら! いやあねぇ~、うふふっ」

午後の語学授業が終わり、りこはカイユと厨房に茶の用意に行き。
中庭のテーブルに座ってるのは魔女だけで。

「トリィ様のような方は、閨でしつこい男はお嫌いなんじゃないかしら?……あ、そうでしたわね! まだ接吻どころか、お手さえ握れないのでしたわね」!
==…………。
 
いつもなら我も、りこと共に取りあえず厨房に行くのだが。
これに用事がある我は、この場に残った。
我は術式で寝室にあった本……絵本を取り出し、魔女に放った。

「ああ、先日お貸しした絵本ですわね?」」

まったく、むかつく女だ。
りこの気に入りでなければ、とっくに処分しているぞ。

==持って帰れ。

「うふふっ、<美しき氷の帝王>に恋した美姫の悲恋話は女性に人気があるんですわよ?」

==貴様……。

「氷の心しか持たない魔物は美姫の愛に全くなびかず。哀れな姫の涙が<星の河>になった……ふふっ、実際はこの星の数ほどの女が貴方様に焦がれて、泣いたことでしょうね」

==……さあな。とにかく、二度とりこに見せるな。今度このような戯れをしかけたら、セイフォンを潰して帝都に移るぞ。

「……御意。<美しき氷の帝王>様」


それは御伽噺ではなく、古い古い昔話。
もう、どこにもいない。

美しい、氷の魔物の物語。




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