四竜帝の大陸【青の大陸編】

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「じじい。……で、どうする気だよ? おちびに触った術士は北棟地下室にダルフェが‘保管’してあるぜ」

我は<青>の頭の上に乗ったまま、カイユの持ってきた衣類を<青>の元に転移させた。

==……そいつは我のりこに汚い手で触り、おぞましい体液を付けただけではない。

<青>のみに聞こえるように、念話を用いて我は答えた。

「あ?」
 
==我がりこに呼ばれ戻った時、左頬が腫れていた。奴は手を上げたのだ。

「……なるほどな。俺様が見たときには治癒が終わってたのか、ちっ!」
 
==寝てたお前は知らぬだろうが。ヒンデリンの報告で、あれはぺルドリヌの者だと分かった。
 
我は<青>の頭から飛び立ち、池の淵に降りた。
覗きこむと、赤い小魚が数匹泳いでいた。
その姿は舞い踊る女のようでもあり、戦場で見た武人の剣技のようでもあり……。
りこは小魚が気に入ったようで、朝食のパンを小さくちぎり与え。
小魚がパンをつつくのを、楽しそうに眺めていた。
どこらへんが楽しいのか、我には分からなかったが。
りこが楽しければ、我は満足だ。

「ペルドリヌ? あの狂信者共かっ! あいつ等は術士こそが選ばれた存在だとかほざいて、同属である普通の人間を見下してる。一番むかつくのは、俺様達竜族を大蜥蜴呼ばわりしやって、蔑みやがる! いくら温厚な俺様でも、ぶっ殺したくなる奴等が造った新興国家だな」

肩にかかる青い髪を乱暴な仕草で払い、<青>は吐き捨てるように言った。
この<青>は乱暴な口調を好んで用いるが、実際は非常に温和で暴力を好まない。
それは人類との共生を選んだ近代種の特徴であり、この個体の欠点、そして長所なのだ。
 
==お前に人を殺すことは出来ぬ、諦めろ。 

ペルドリヌなどという小国は、竜帝程の力ならば簡単に滅ぼせる。
術士で構成された国家だろうと、竜帝が本気になれば容易い事だ。
ランズゲルグの性質では難しいが、手持ちの竜騎士達を投入すれば数日で片が付く。
だが、こやつはそうしない……出来ないのだ。

<青>がペルドリヌと今まで事を構えず、竜族への誹謗中傷に耐えているのは。
四竜帝の総意で<人間との共存>を選択しているからだ。
人間という生き物は。
自分達より遥かに強く長命な竜族に、世界の覇権を握られぬか常に警戒している。
これは、生物として致し方ないことだ。

だからこそ。
竜帝は人間に、恐怖を与え過ぎてはならない。


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