四竜帝の大陸【青の大陸編】
畏怖されることは必要だが……強い恐怖心を持たれてはいけない。
この千数百年程は、竜族と人間はうまく共存してきた。
我を<監視者>とすることで。

竜族……竜帝への恐怖は、それ以上の恐怖……竜帝を殺せる<監視者>の存在が、人間の恐怖心を竜帝から逸らし。
我の存在が、竜族と人間の均衡を保つ。

だが。
もし竜族が、怒りに任せてペルドリヌを滅ぼせば。
それは人間の恐怖心を煽り、竜族への迫害となって返ってくる。
過去に何度も繰り返された、事実だ。
過ぎる恐怖は、殺意を生む。
我は竜と人のそれを、長い……永い間、見てきた。
だから、思ったのだ。
我を手に入れたりこを、必要以上に人間共に‘恐怖’させるのは得策では無いと。

今回の間者は竜騎士共に下げ渡したが。
今後送られて来る間者には、意図的に<監視者>のつがいの情報を流し。
りこに対する人間共の感情を操作・管理できればと……。
あの時。
りこが温室で寝ている間に、全て処分すべきであったのか?
そうすれば……頬を打たれるような惨事も起こらなかった。

<監視者>のつがいに取り入ろうなどと、権力者共が考える余裕も無いほどの‘恐怖’を人間共に与えるべきなのか?
 
==ランズゲルグよ。感情に疎い我では、人間共の複雑な心情を考慮し、判断することが難しいな。力で抑え付けるのは簡単だが、加減が分からぬ。我が間者とそれを使った者達を引き裂けば、人間は原因となったりこを恐れるのだろう? 我は……人間がりこを見る眼を、我に向けられるようなものにしたくない。我はなんとも思わぬが、りこは違う。りこは、我とは違うのだから。

「じじい……。俺様に出来ることはなんでも協力する。だからっ」  
 
==……お前は<竜帝>だ。竜族の事だけ考えていれば良い。この件は今後、一切口にするな。

「でもっ!」
 
==黙れ、<青>。

「……わかったよ。もう言わねぇし、聞かねぇ。この事に、<青の竜帝>は関わらない」

衣服を握り締め、俯く<青>は。
成竜になっているはずなのに、何故か常より幼く見えた。

こやつが“ちび”だからか?
それとも。
我が、変わったのだろうか?



< 326 / 807 >

この作品をシェア

pagetop