四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこ?」

我の腕の中で寝入ったりこは、うっすらと微笑を浮かべていた。
意識して多く与えたかけらの影響で、思考が少々乱れていたようだが……。

「りこ……」

我の鱗に似た白い花がとても、とても似合っていた。
誰にも見せたくないと思うほど、綺麗だった。
この腕から離したくない。
ずっと、こうしていたい。
百年でも、万年でも……このままで。
そう、強く思う。
しかし、りこを連れては行けない。
連れては……知られてはいけない。

「カイユ」

我はカイユを呼んだ。

「カイユよ、我は自分が思っていた以上に<竜>であったようだ。これ以上、抑えがきかん。夕暮れまでは時間があるので、さっさと片付けることにする。お前は、りこの側に。我が留守の間、お前以外が我が妻に近寄ることは許さない。人間も竜も……雌だろうが、幼竜だろうが例外は認めん」
「はい。ヴェルヴァイド様」

カイユも竜騎士。
現時点でこの個体に勝てる竜は、竜帝であるランズゲルグと<色持ち>のダルフェのみ。
それほどに、強い雌竜なのだ。
大陸最高位の術士が相手ならば、さすがに分が悪いが……あれが出てくることはない。
あやつは世俗に興味が無い。
ペルドリヌにいくら金を積まれようと、あの埃臭い部屋から動かんだろう。

「……りこ」

我はりこの小さな身体を、壊さぬように抱きしめ。
愛しい香りを胸に吸い込んでから、カイユに預けた。
先ほど、我が与えたかけらは6粒。
数時間は眠り続けるだろう……何も知らず、気づかずに。
カイユが寝室へ移動し、寝台にりこを横たえたのを気配で確認してからダルフェに声をかけた。
奴は竜体の我に念話で詳細を報告し。
幼竜とヒンデリンへの慈悲を、繰り返し懇願してきていた。

「……ダルフェよ。<青>は犬の躾けに失敗したようだな」

我は床に座り込んでいる幼竜を見た。
竜騎士はその特異な性質から、ある程度の恐怖心を常に与え御す必要がある。
まだ若いランズゲルグは竜騎士の<飼育方法>が身についていないのか、それとも……。
この場で幼竜を縊り殺すのは容易いが……まずはこやつだな。

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