四竜帝の大陸【青の大陸編】
「カイユ! おちびを呼んでくれっ……ヴェルが、なんかやばいんだ。つがいであるおちびの協力が……カイユ!!」

南棟に戻ると、温室から居住区に繋がる扉の前で<青>とカイユが揉めていた。

「お下がり下さい、陛下。私は貴方の竜騎士ですが、竜騎士であるからこそ絶対的強者であるヴェルヴァイド様の命が<竜帝>の命より優先されてしまうのです。……申し訳ございません」

雌である自分より背の低い<青>に深々と頭を下げたカイユの右手には、剥き身の刀。
細身の刃は緩やかに湾曲しており、小波のような刃紋が冷たい金属に優美な印象を持たせていた。
使い手によっては金属さえも切断可能な片刃のそれは、通常の剣より軽量なうえに強度においては他の追随を許さない。
普通の竜族より強力な力を有する竜騎士達は、剣より刀を好むものが多い。
一般の剣では竜騎士の力に耐えられんからな。

「<青>よ。何を騒いでいるのだ? とっとと執務室に帰り、我からの贈り物をもっと堪能しろ」

我は後ろから<青>の頭を右手で掴み、持ち上げてこちらを向かせた。

「うわっ! じじい?!」

足をばたつかせながら、<青>は言う。

「離せよ! てめぇ、俺に断りもなく竜騎士共を動かしやがったな……って、ヴェル! 頭から足まで全身びちゃびちゃじゃねえか! 足元、水溜りできてんぞ」

青い眼が床と我を交互に見て、数回瞬きをした。

「まさか……このまんま、湯に入ったんじゃねぇだろうな?」
「? 入ったが」

「なっ!? 風呂に入る時は、服を脱げ! ったく……常識欠落しまくりだよな、じじいは。せめて拭いてこいよ、タオルあっただろうがっ」

衣類を脱ぐ?
汚れてるのは外側だったので、衣類を脱ぐ必要性を感じなかったのだ。
蜥蜴蝶を使った衣類は表面で全ての汚れを受け止めるので、簡単に洗い流せる。
戦闘服や軍服の素材として蜥蜴蝶が重宝がられるのは丈夫さだけでなく、そういった利点があるからだ。
だからこのまま、湯船に入った。
それのどこが悪いのだろうか?
    
「お帰りなさいませ、ヴェルヴァイド様。……何か拭く物をお持ちいたしますか?」

朱色の漆が塗られた艶やかな鞘に刀をしまい、カイユが我に問うた。
その鞘には見覚えがあった。
<赤>が同じような物を持っていたな。

「いらぬ。カイユ、りこはじき目覚める……ちょうど茶の時間だな? 我のかけらが身体になじめば体調も回復し、食欲も出るはずだ。菓子だけでなく、軽食も用意しろ」
「承知いたしました」

一礼し、温室を去ろうとしたカイユに<青>を突き出した。

「これも、持って行け。<青>よ、我の許可無くりこに近づくな。次は殺すぞ? 止めてくれたカイユに感謝するがいい」

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