四竜帝の大陸【青の大陸編】
もし、りこの眠る居住区へ一歩でも踏み込んでいたのなら、我は<青>を殺していたただろう。

ランズゲルグは我を殺せぬが、我はこれを躊躇い無く殺せる。
カイユはこの若い竜帝よりも、我の事を理解しているからこそ<主>を守ることができた。

「お、俺は……」

そのカイユを見る<青>は、またも唇を噛んでいた。
癖なのか、それとも……言うべき言葉が見つからないからか。
薄く紅をさした女のような唇に、うっすら血が滲む。
ふと、思いつき。

「……」
「ヴェッ!?」

<青>の血液を、舐めてみた。
やはり、我の味覚はりこ専用なのだな。

「味を全く感じんな……ん?」

<青>はもう、唇を噛んではいなかったが。

「……」
「どうした、顔が真っ赤だぞ?」

<青>に問うた我に、カイユが言った。

「……トリィ様の前でそのような行為は、絶対にしないで下さい」

ああ、そうだったな。 
むやみに口を使うと、りこは怒るのだ。
<青>を黙らせるのに、口を使ったらとても怒られた。
怒った姿も可愛くて、もっと怒られてみたいとあの時に感じたことは秘密だ。

「わかった、今後は気をつける。で、お前は何故赤くなったのだ?」

<青>の顔は赤から青へと一瞬で変化し、我の手を振り解き叫んだ。

「う、うるっせぇー! んなの知るか、このエロじじい!」
「………えろ?」

ばたばたと走り去る姿には、竜帝としての威厳は欠片も無かった。
幼い時もああして、我の周りをぐるぐると走っていたな。
成竜になっておるのに、落ち着きが無いというか。

「えろ……あやつは何を言っておるのだ? 意味が分からぬな。<青>の成長不良は、脳にまで及んでいたのか?」

走り去った<主>を苦笑で見送ったカイユの言った言葉は、我には少々難解だった。

「ヴェルヴァイド様の前以外ではきちんと<竜帝>ですから、ご安心ください。ただ……ご両親を早くに亡くされたせいか、陛下は大人の雄に‘弱い’んです。早くつがいの雌と巡り会っていただかないと……いろいろ心配で」

弱い?
いろいろ心配?
カイユもダルフェも時々、訳の分からん事を言う。

「……お前等夫婦は、よく似ているな」
「貴方様とトリィ様も私から見れば、よく似ていらっしゃいますわ」

我が分かりたいのは、りこの心。

「……そうか」

りこの心を分かる我に、なりたい。
 
 

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