四竜帝の大陸【青の大陸編】
寝室まで歩くと、我の通った跡はくっきりと濡れていて……まるで自分が蝸牛にでもなってしまった様な気がした。
ドアノブを掴もうとして、赤茶に変わってしまった手袋をしたままだった事に気づいた。
とても不快だったので剥ぎ取り、居間にある暖炉へ放った。
りこには、こんなモノを見せたくない。

「りこ」

寝台で眠るりこを眼にした途端、あたたかなものが我の中に満ちる。
これがなんなのか、我はそれを表す適切な言葉が分からない。
りこと居ればそのうちに、必ず分かる時が来るだろう。
それは予感などという不確かなものではなく……。

「りこ。貴女と離れた数時間は、我にはとても辛かった」

布など使わずとも、術式を用いれば一瞬で乾くのに。
我はそれはせず寝台に歩み寄り、りこの寝顔に魅入った。 
寝台の端で……扉の方に寄って眠る姿は、我の帰りを待ちわびてくれてるかのようだった。

可愛く、綺麗な我のりこ。
我は帰ってきた。
貴女の元に、帰ってきた。

「りこ。我はびしょぬれなのだ。目覚めたら……いつものように、拭いてくれるか?」

風呂上りの我を柔らかなタオルで包み、りこは優しく丁寧に拭いてくれる。
それはとても気持ちが良く、心が和むのだ。
我はタオルなどを使わずとも、乾かすことが可能なのだが……‘ふきふき’してもらうのが大好きなので、りこには内緒にしている。

我はりこに<内緒>にしていることが、多くある。
総てを貴女に曝け出せるような勇気など、我は持っていない。

穢れなど気にならなかったのに、貴女に会って我は変わった。
確かに我は変わったのだが……変わらぬ部分の方が、多いのだ。

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