四竜帝の大陸【青の大陸編】
ダルフェさんは、お裁縫がとっても上手だった。
彼はカイユさんと結婚して彼女のためにお料理を作るようになり、カイユさんが妊娠して……彼はお裁縫にこりだしたのだと、竜帝さんが天井を見ながら言った。
子供といつまで一緒にいられるか分からないから、ダルフェさんは子供達に自分が遺せるものをと、考えたのだろうと……。

だから、お裁縫が上手。

小さい時に着るものも、成竜になったお祝いで着る晴れ着も少しずつ仕上げて。
2人分のお洋服。
男の子、女の子……2人分の。

遺していく子供達を想うダルフェさんの姿を、カイユさんはずっと隣で見てきて。
言えなかったんだと思う。

愛してるから。
ダルフェさんを、愛してるから。

心から想い合った、恋人同士なら。
愛し合ってる者同士ならなんでも話せるって、以前の私は思ってた。
けど、ハクちゃんを好きになって分かった。

愛してるからこそ、口に出来ないこともあるんだって知った。

ずっと1人で秘密を、悲しみを抱え込んでいたカイユさんは精神の均衡を保つため……この世界に<存在するはずの無い私>を<存在するはずだった娘>にしてしまったんだろうと、竜帝さんは言った。
さっきのカイユさんの状態は分娩が迫り、いろいろなバランスが崩れために思い込みが前面出てしまったのかもしれないと……。
出産後も今の‘思い込み’が続くかどうかは竜帝さんにも分からないって、宝石のような眼を閉じて言った。
竜帝さんはカイユさんの主だけど、幼馴染でもあるのだから。
彼も竜帝としてではなくランズゲルグとして思うこと、感じることがあるのかもしれない。 

カイユさん。
カイユ。
綺麗で強くて、優しい……竜の母様。

もう、1人で苦しまないで。
ダルフェさんは、貴女がそうして苦しむのが何より辛いはずだもの。

彼がショックを受けたのは、赤ちゃんが1人だったことじゃない。

愛しい人が、ずっと1人で苦しんでいたこと。

愛しい人の心を無意識に傷つけていたこと。

一番大切な、護りたい人を傷つけてた自分に気づけなかったこと。

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