四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこ。この続きは明日にしろ」

ハクちゃんは止まっていた私の手からお皿をとり、流しにそっと置いた。
結局、なに1つ洗えていなかった。
 
「ハクちゃん、私っ……」

ハクちゃんは私を床に降ろした。
跪いてゴム手袋をはずし、エプロンもとってくれた。
リボン結び……結べないけれど、解くのは上手だもんね。
着る事はできないのに、脱がすことはできるって……今朝、知ったもの。

「あ……ありがとう、ハクちゃん」 

ハクちゃんは私の両手をひんやりとした大きな手で包み込み、目線を私にしっかりと合わせて言った。

「りこは、言わぬのだな」
「えっ!? な、何を……?」

他の竜族の人達とは違う、透明感の無い黄金の眼。
その眼の中に、同じ眼を持つ私がいた。

ハクちゃんの眼の中に、住めたらいいのに。
そうしたら、貴方の中で死ねるのに。
私、きっと……ダルフェさんより早く死んじゃう。
 
「あれが<色持ち>として産まれた時……父親は跪き、我に息子の延命を祈った。母親は自分の寿命を息子と取り替えてくれと願い、我に縋った。りこは我に祈らぬのか? 願わぬのか?」

ダルフェさんの寿命を、カイユさんと同じにしてって頼むの?
私がハクちゃんに? 

「……おかしなこというのね、ハクちゃんは」

私が咳しただけで、焦る貴方に?
私が食欲が無いって言っただけで、お医者様を呼べって騒ぐ貴方に?
 
いくら女医さんだからって……。
支店で……私が体の奥まで診察されるの分かってたのに、貴方は許した。
自分以外が私の体に触るのを、あんなに嫌がるのに。
カイユさんだって、ハクちゃんの視線をちゃんと確認して私と接している。
彼の許容範囲内で、私に触れているのだから。

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