四竜帝の大陸【青の大陸編】
「おいヴェル! これ、一応じじいも目を通して確認してくれよ」
「……」
数枚の用紙を手に取り、束ねて差し出した竜帝さんをハクちゃんは無視した。
「無視か? けっ……このクソじじい! とうとう耳まで耄碌したのかよ!?」
「……」
ハクちゃんは私の隣で長い足を組み、偉そうにふんぞり返ったまま……ぴくりとも動かない。
冷たい美貌は前に向けられてるけれど、シスリアさんを見てはいない。
見てない……金の眼には確かに彼女が映ってるけれど。
ただ、それだけ。
ハクちゃんは、見ようとしていない。
彼は『見る』気が無いんだと思う。
「おい。お前が手続きしとけって言ったんだろうがっ……ヴェル!」
視線すら、竜帝さんに向けない。
「……」
「ヴェルッ!!」
完全無視状態。
どうやらハクちゃんは、ご機嫌斜めになってしまったみたいだった。
理由は、新しい先生がバイロイトさんの奥さんであるシスリアさんだったことみたい。
ハクちゃんは執務室に呼ばれた彼女を見て、いきなりこう言ったのだ。
「嫌な匂いのする女だな」
なんて失礼なことをって、私はぎょっとした。
ハクちゃんに注意しようとした私を、シスリアさんは大慌てで止めた。
「い、いいんです! ご不快になって当然なんです。私の夫が支店で大変失礼な事をしたと聞いてます……申し訳ありませんでした。今度、バイロイトに会ったら私がきつく叱っておきます! 本当に、ごめんなさい」
嫌な匂い。
それは、バイロイトさんの匂いのことだったのだ。
私には匂いなんか全く分からないけれど、ハクちゃんは違った。
支店。
匂い。
キス。
私は何も言えなくなった。
だって。
ハクちゃんは多分、知らないから。
あの時バイロイトさんが私に触ったのは‘匂い’で察したみたいだった。
キスされたのは、きっと知らない。
ハクちゃん本人に確認したわけじゃないから、はっきりとは言い切れないんだけど……。
どこに触れられか、ハクちゃんは私に訊かなかったし……言えなかった。
「……」
数枚の用紙を手に取り、束ねて差し出した竜帝さんをハクちゃんは無視した。
「無視か? けっ……このクソじじい! とうとう耳まで耄碌したのかよ!?」
「……」
ハクちゃんは私の隣で長い足を組み、偉そうにふんぞり返ったまま……ぴくりとも動かない。
冷たい美貌は前に向けられてるけれど、シスリアさんを見てはいない。
見てない……金の眼には確かに彼女が映ってるけれど。
ただ、それだけ。
ハクちゃんは、見ようとしていない。
彼は『見る』気が無いんだと思う。
「おい。お前が手続きしとけって言ったんだろうがっ……ヴェル!」
視線すら、竜帝さんに向けない。
「……」
「ヴェルッ!!」
完全無視状態。
どうやらハクちゃんは、ご機嫌斜めになってしまったみたいだった。
理由は、新しい先生がバイロイトさんの奥さんであるシスリアさんだったことみたい。
ハクちゃんは執務室に呼ばれた彼女を見て、いきなりこう言ったのだ。
「嫌な匂いのする女だな」
なんて失礼なことをって、私はぎょっとした。
ハクちゃんに注意しようとした私を、シスリアさんは大慌てで止めた。
「い、いいんです! ご不快になって当然なんです。私の夫が支店で大変失礼な事をしたと聞いてます……申し訳ありませんでした。今度、バイロイトに会ったら私がきつく叱っておきます! 本当に、ごめんなさい」
嫌な匂い。
それは、バイロイトさんの匂いのことだったのだ。
私には匂いなんか全く分からないけれど、ハクちゃんは違った。
支店。
匂い。
キス。
私は何も言えなくなった。
だって。
ハクちゃんは多分、知らないから。
あの時バイロイトさんが私に触ったのは‘匂い’で察したみたいだった。
キスされたのは、きっと知らない。
ハクちゃん本人に確認したわけじゃないから、はっきりとは言い切れないんだけど……。
どこに触れられか、ハクちゃんは私に訊かなかったし……言えなかった。