四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ハクちゃん。私の世界にも戦争はあったよ? 惨い犯罪だって、いっぱいあるし」

貴方の眼に、私は……。

「戦争の映像を見ながら、家族でご飯を食べることだって……」

私の住んでいた国は平和だった。
でも、【世界】が平和だったわけじゃない。

「戦争の映像はしょっちゅうだから、見慣れてしまってた。自動的に流れるそれを真面目に見るなんてしたことなくて、自分には関係無いって……」

同じ世界の中で起こっていたのに。
あんまり実感が無かった。
戦争映画みたいに残酷な場面は、ニュースではやらない。
画面に映るのは戦車や戦闘機、銃を肩に下げた迷彩服の大柄な兵士。
壊れた建物。
真っ黒に焼けた乗用車。
私にとって、それは全く現実感が無くて……。

「ひどいでしょ、私って」

テレビの中のそれは、同じ地球であったこと。
同じ世界であったこと……続いてることなのに。
保健所で処分を待つ捨て犬達のニュースは食い入る様に見て、可哀相だと泣いたけど。
遠い砂漠の国の軍事施設が、爆破される瞬間をとらえた人工衛星からの映像を見ても。
今の科学ってすごいんだってことくらいしか、考えなかった。
そこにだって、人が居たはずなのに。
大勢、亡くなったかもしれないのに。

「私は貴方が思ってるような、綺麗で優しい人間じゃない」

貴方を好きになって、自分の命のことを……死を考えるようになった。
命……と、死。
命が大切だって、尊いものだって知ってるつもりだったけれど。
今までの私は‘知ってるつもり’なだけで、ちゃんと考えたことなんかなかったんだと気がついた。

「私は……ずるくて、自分勝手で……嫌な女なの」

優しいのは、貴方。
綺麗なのは、貴方。
 
「なぜ、そのような事を言うのだ? 我のりこは、綺麗で優しく温かい。……<化け物>の我などとは、違う」

化け物?
貴方のどこが化け物だっていうの?

誰かにそう言われたの?
言われ続けてきたの?

泥棒のおじさんは、私がハクちゃんのつがいだと分かると。
眼が、変わった。
私を見る眼が変わった。
眼……私を見たあの眼は。

セイフォンの侍女さん達が、先生候補の人達が。
隠そうとして、隠し切れずに滲み出ていた……あの眼と同じ。

泥棒のおじさんは、私を怖がったんじゃない。
ハクを……<ヴェルヴァイド>を恐れたんだ。

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