四竜帝の大陸【青の大陸編】
「我とりこは戻る。<青>、<赤>と話を詰めろ。報告は明日で良い」

咳き込む竜帝さんをまったく気にしていない反省ゼロなハクちゃんに、一言いわなければと思った私に聞こえてきたのは。

「ま……待ってちょうだい! 私、訊きたい事がっ……待って、ヴェル!」

踵を返したハクちゃんを呼ぶ<赤>の竜帝さんの声。
大魔神なハクちゃんを前に、余裕すら感じられたさっきのものとは……違う。

「ハクちゃん、待って! <赤>の竜帝さんがっ」

ハクちゃんに<赤>の竜帝さんの話を、ちゃんと聞いてあげて欲しい。
きっと、彼女にとっては私の事より重要な事……大切な話だと思うから。
今のは……感情的な声だったもの。

「喋るな、りこ。我の口で塞ぐぞ? 両手が空いとらんのでな」

慌てて黙った私の髪をひんやりとしたハクちゃんの手が撫で、指が梳いた。
むむっ~、空いてるじゃないですか、手。
その髪をいじくってる手でがばっと口を覆えば良いじゃないの?

「ブランジェーヌ、手短に言え」

ハクちゃんは、振り返らなかった。
でも、足を止めてくれた。

「<青>にカイユのこと、聞いたわ。あの子は……ダルフェは大丈夫だった?」

カイユさんと、ダルフェさん?
あ、この人はダルフェさんの事を訊きたかったんだ……知り合い?
親しいお友達とか……血縁関係では無いだろうし。
<色持ち>は遺伝とかじゃなく、突然変異に近いってハクちゃんが……昨夜、眠る前に教えてくれたもの。

「さあな。お前の息子が何を思い、考えているかなど我には分からん」


息子。 
息子?


「息子っ!? ダルフェのお、お、お母さん!?」

がばっとハクちゃんから身体を離し眼を開けて、私はダルフェさんの『お母さん』の姿を確認してしまった。

「……なるほど。そんなに我に接吻して欲しいのか、りこ。夫である我に遠慮は無用だと、何度言えば分かるのだ?」

なにトンチンカンな事、言ってるのよ!?
今はダルフェさんと<赤の竜帝>さんの……うわっ、ハクちゃんったら転移しちゃったぁああ。
赤い竜の姿は一瞬で視界から消え、薄暗かった<電鏡の間>になれた眼には少々まぶしい明るさを感じた。

「それ、違う! ダルフェのお母……え!?」

寄せられた白皙の顔を、力いっぱい両手で押し戻した私が見たものは。
温室にあふれる鮮やかな緑ではなく……。

「こ……ここ、どこ?」
「塔だ」

 塔?
「塔の部屋だ」

部屋……ここが部屋?
塔、部屋。

カイユさんが言っていた、塔にあるハクちゃんの部屋?
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