四竜帝の大陸【青の大陸編】
竜帝さんが、言っていた。
ミルミラ……カイユさんのお母さんが、ここから見る夕陽が綺麗だって言ってたって。

「我はりことここで、夕陽を見るのだ」

貴方は金の眼を細めて、そう言ったけれど。

「ここが? 貴方の……っ」

抱かれたまま見回したここは……。
壁、天井……床まで。
全てが乳白色。
石……でも、継ぎ目が見当たらない。
床だけが平面で……壁が内側に迫るかのように、天井と一体化していた。
ドーム……ううん、これは完璧な半円。
30畳以上はありそうなのに、部屋の構造のためか……なんだか息苦しい。
巨大な乳白色の水晶珠の内側に、間違って入り込んでしまったかのようだった。
乳白色のそれは半透明で、微かだけれど天井と壁から外の陽の光を室内で感じることができた。
中央には、大きなベッド。
使われた形跡の無い真っ白な寝具。
それが、この乳白色の空間にある全て。

部屋?
ここが!?

ぞくりと、寒気がした。

小さな白い竜がここで……1人で過ごす姿が、頭に浮かんだから。
暗い青色をした鉄製の扉だけが、この部屋にある‘色’だった。
窓の1つすら無い、綺麗なだけの冷たい空間。

「うむ。この地を帝都と定めた<青>が造っ……りこ? どうした、寒いのか? ここは城より古く、暖房設備は一切無いからな」

私の目に。

ここは。 
牢獄に見えた。

女神様……竜帝さん。

ハクちゃんは、帝都では庭で暮らしていたんだって。
そう私に言ったんだよ?

落ち葉のベッドが、彼はお気に入りみたいだった。

「ハ……ハクちゃ……わた……っ」

ダルフェさんと<赤の竜帝>さんのことを、ハクちゃんに訊きたかったのに。
この【部屋】を見たら。
ここを【部屋】だと言い、ここで夕焼けを見るのだと眼を細めるハクを見たら……。
胸が、痛くて。
頭の芯が、冷たくなって……。

「……」

もう、私の不出来な脳はハクの事でいっぱいで。
ダルフェさんと<赤の竜帝>さんのことを、考える余裕がなくなってしまった。

「城内は暖房がきいておったものな。すまぬ、ここはりこには寒かったな。……うむ、これを使えばよいか」

ハクちゃんは、私が黙ってしまったのは寒さのためと勘違いしたようだった。
ベッドに歩み寄り布団を無造作にまくって私を下ろし、跪いて私の履物をとって足元にきちんと揃えて置いてくれた。
あ……さっき、教えてあげたから。

「すまなかった、りこ。我は寒さを感じないので、つい……これで、どうだ?」

ベッドに腰掛けた私に、掛け布団をそっとかけてくれた。
それはとても軽く……薄くて。

冷え切っていて、冷たかった。

< 430 / 807 >

この作品をシェア

pagetop