四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ハクちゃん……『Trick or Treat?』……ふふっ!」

ハロウィンといえば。
かぼちゃ……そして、これよね。
「異界の呪文か?」

ハクちゃんがほんの少しだけ首を傾げた。
呪文……彼の耳には、そんな風に聞こえたのかな?
そっか、今は人型だから言葉の意味が通じないものね。

「トリック・オア・トリート。お菓子くれなきゃ、いたずらするぞって意味なんだって」

多分、これはあってると思う。
以前買い物をしたハロウィン用のお菓子コーナーに、そう書いてあったしね。

「いたずらと菓子か。異界は変わっているな、人間とは菓子より金品を好むと我は思っていたのだが。ふむ、菓子……甘味か。りこ」

ハクちゃんはまるでマジシャンのように、一瞬でどこからか出した真珠色のかけらを1粒摘み。

「りこ。あ~ん」

私の口に、ころんと入れた。

「むふ、甘~いっ」

右手を私の顎に添え。
甘いかけらを味わう私の唇を、ハクちゃんは親指でゆっくりとなぞった。

「ハクちゃん? ……っ」

見下ろす金の眼に、間抜けな顔をした私が映っていた。
眼を見開き、半開きの口……。
そうなっちゃうのも無理は無い、と思います。
だって、そのっ!

「……りこ」

蝋燭の明かりは女性を綺麗に見せるんだって、前に聞いた気がするけれど。
男の人だって、綺麗になるんだと知った。
オレンジの明かりに照らされて、真珠色の髪も白い肌も色を持ち……黄金の眼が、いつも以上に妖しく輝いて。
綺麗というより幻想的で。
眼が、離せない。
目の前にいるのに、私から貴方に触れたら……消えてしまいそう。
全ては夢だったと……この世界も、貴方も。
貴方が、消え……っ。

「ハクちゃ……ん。私っ……!」

なんだかとても怖くなって、ハクちゃんをしっかりとこの手に掴んでおきたくて。
夢なんかじゃないって確かめたくて。
ハクちゃんに両手を伸ばし……あれ?

「ちょっ!?」

仄かなオレンジ色に染まった長い髪が、私にふわりと降り注ぎ。
正面には、ランタンの明かりが眩しいのか……細められた切れ長の眼を持つ、怜悧な顔が。
か、顔が近っ……!
いつの間にか左腕を、私の腰に絡めるように回し。
顎に添えられた右手で、私の顔をゆっくりと撫で上げ。
ハ、ハクちゃん!
これは……お茶を飲む体勢じゃないと思います!

「りこ、『Trick or Treat?』だ」

はい?  

「お菓子くれなきゃ、悪戯するぞ……だったな?」  
「ハ……クちゃ!?」

い、い……たずらですか!?

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