四竜帝の大陸【青の大陸編】
「俺様ができんのは、消去だけだ。知能をどうこうなんて、できねぇ」

我はりこの黒い瞳が大好きだった。
りこの眼の色に染まってしまいたいほどに、あの黒い瞳を愛しいと思っていた。

「我にも無理だ。りこは知能が向上したのではない、あれは単なる副作用だ」

セイフォンに居た頃と違い、りこは我と交わるようになった。

「りこは言葉を理解する能力を、多少だが……確かに得た。我と頻繁に性交渉を持つようになり、それは格段にあがった。苦労して【お勉強】せずとも、会話が出来るのだ。なんの不都合がある? 良いではないか。りことて便利だろう?」

りこ。
会話が上達しているのは、努力の成果ではない。
早朝の勉強も、我としている会話練習も。
してもしなくても、結果はたいして変わらなかったのだ。

りこは試験が6点だった。
書き取りが6点なのには、根拠がある。
我の念話能力が歪んだ形でりこを侵食したのだ。
発する者が意識せずとも、言葉には念に近いもの……意思が込められている。
それを受け取り、理解するのは念話能力。

念は無形、文字は有形。
文字は覚えなければ書くことはできぬ。
それゆえ、6点なのだ。
交わることで竜珠が力を増し、我の予想外の結果をもたらした。
不安定ではあるが、強い再生能力。
<青>が指摘した言語能力の向上。

それらは代償を伴った。 

りこがシスリアとの勉強中は、我は竜体で同行する。
セイフォンで魔女に学んでいた時同様に、通訳が……我の念話能力が必要だと考えたからだった。
異界の言葉でりこが我に質問する、そう思っていたからだ。
 
初日、りこは我に対して異界の言葉を使わなかった。

疾患ではないので体液に変化は見られず、我にも確証は持てなかったが……。
以前は感情が昂ぶると、異界語で喋っていたのに。
我と交わり意識が混濁した状態になっても、その唇が紡ぐのは公用語のみだった。
  
りこは気づかない……気づけない。

異界の言葉を忘れたわけではない。
配置が変わっただけだ……今は、まだ。
消えてはいない。

だが、確実に奥へ奥へと追いやられている。
そう遠くない未来に。 
淡雪のように……融けて無くなる日がくるのだろうか?

それは我にも解らない。

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