四竜帝の大陸【青の大陸編】
かぼちゃでランタンを作っている時とは、明らかに様子が違う。
異界の行事……ハロウィンの事を遠慮がちに口にした時、その眼にあったのは懐かしさではなく、好奇心に近いものだと我は感じた。
話を聞くと、それは異国の行事であり……かぼちゃでランタンを作るという作業は、りこにとって[初めての遊び]だった。

「まあ……そういう時もあるって、気にすんな。それ、おちびにやるよ」

<青>の言葉に、りこの手が止まった。
揃った色は1色だった。

「えっ? もっ……もらえない。さっき、高かったって言ってたもの」

<青>は10年程前に、人間の商人からこの[貴重な珍品]を購入した。
異界の品には高値が付くからな。

「俺様はそこらの王族なんか足元に及ばない、桁外れの金持ちだぜ? 遠慮すんな、懐かしいって言ってたじゃねぇか」

違う。
金の問題ではないのだ。
りこは我の為に異界の物を欲しがらない……欲しがれぬのだ。
以前、りこは言った。
りこが異界の話をすると、我が不安そうな眼をするのだと。
だから、りこは……。

「ありがとう、竜帝さん。でも、いらないの。ほら、1色しか出来なかったでしょう? 私はお父さんと違って、頭を使うおもちゃって苦手なの……ハクちゃん、やってみる?」

りこが我の右手をとり、のせてくれた正方形の集合体。
面の色をあわせる玩具。
りこの世界の玩具。

「あ! 『ルービックキューブ』だよ、これ! 思い出せたぁ~」

我が捨てさせた、りこの世界の。

「ぎゃあ!? じじい、なにすんだよ!」

手のひらのそれは体積を失い。
鮮やかな色をした、細かな破片へと変わった。

「ハ、ハクちゃんっ大丈夫!? 手を切らなかった!?」

りこは我の指を開き、玩具だったそれらを全て払い落として掌を確認した。
我の手には、当然ながら傷などない。
竜の皮膚は硬い。
りこは我の手を撫でながら、息をはいた。

「ハクが怪我をしてなくて……良かったぁ」

我が染めてしまった瞳は床を……壊れた玩具を見なかった。
金の瞳に映るのは、我の4本指の手。
刃物も通らぬ、鱗に覆われた竜の手。

「あ~あ。おちびにやろうと思って持ってきたのに、このじじいは全くよぉ!」
「ハクちゃんは力加減をちょっとだけ、間違えちゃったんだよね? 竜帝さん、ごめんなさい。ハクを許してあげて」

りこが見るのは我。
異界の玩具ではなく。
父親との……家族との思い出があるであろう、玩具ではなく。

りこは我を選んでくれたのだ。
この我を。

我に。
もっと我に侵食されて。
 
異界の事など、愛する者の記憶など。
この玩具のように壊れ、無くなってしまえば良いのに。



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