四竜帝の大陸【青の大陸編】
カイユさんが居間のソファーにジリギエ君を下ろすと同時に、彼はソファーの下へ潜ってしまった。
ダルフェさんは気にするなって言ったけれど、私には無理。
ハクちゃんが原因なら、なおさらだもの。

「トリィ様、お茶にしましょう。トリィ様の焼いてくださったケーキ、とても美味しそうですわ」

カイユさんが茶器をテーブルに置き、にこにこしながら言った。
母親であるカイユさんも、隠れてしまったジリギエ君をなだめて席に戻す様子は無かった。
それどころか、嬉しそうに微笑んでいる。

「カイユ。ジリギエ君、このままじゃ可哀相だよ。どうしよう?」

うう~っこの状態は、私的にはかなり悲しい。

「この子はヴェルヴァイド様に恐怖し、身を隠しました。ふふっ、検分にかける手間が省けましたわ」

ふわりと紅茶の香りが漂い、4つのカップにお茶を注ぐ音がリズミカルに響いた。

「検分?」

それって、なに?

「ええ。<竜騎士>かどうか、通常は専門の判定機関で調べるんです」

カイユさんはジリギエ君の隠れたソファーの前にしゃがんでいた私を立たせ、向かいのソファーに座らせた。

「いいかげんになさい。姉様が心配してるわ」

そう言ってジリギエ君の隠れているそこに腕を差し入れ、手足を踏ん張って抵抗するジリギエ君を引きずり出した。
カイユさんの右手に長い胴を掴まれて、短い手足で宙をかきながらジリギエ君は叫んだ。
「ギキッキキューギー!」

青みがかったグレーの細く長い胴をくねらせて、皮膜の張った翼をばたばたと動かしていた。

「この子は間違いなく<竜騎士>ですわ。ヴェルヴァイド様を絶対的強者と認識したからこそ、怯えたのです。まあ、そのうち慣れますからご心配なく」

竜騎士……それって職業名じゃないの?
警察官みたいに試験を受けてなるんじゃなくて、生まれ持った才能が重要だってことなのかな~。

悲痛な叫びをあげ続けるジリギエ君を自分の膝に押し付け……じゃなく、座らせたカイユさんの前に上手にカットしたシフォンケーキに生クリームを添えたお皿を置いて、ダルフェさんが言った。

「こらこら騒ぐなって、しょうがねぇだろ~ジリ。このおっかねえ旦那は、お前の姉様のつがいなんだから。お前はこの旦那と一生付合うんだぜぇ? 多分、お前の子供も孫もなぁ。腹くくっとけよぉ、ジリギエ」

薄いピンクのシャツに真っ白なふりふりエプロンをしたダルフェさんは、ジリギエ君の額を指先でちょんちょんとつつきながらニヤリと笑った。

「さあ、愛娘の作ってくれたケーキを食わんとねぇ。父ちゃんは幸せもんだなぁ」

カイユさんの隣に腰を下ろして、ダルフェさんはお皿のシフォンケーキをぱくっと1口で食べてしまった。

< 472 / 807 >

この作品をシェア

pagetop