四竜帝の大陸【青の大陸編】
私だけのハクでいて欲しかったから。
だから、子供が欲しかったの。

「りこは」

あぁ、私は……あなたに<りこ>を、遺したかったのかもしれない。

「孕ませられぬ男が夫では、さぞかし不満なのであろうな?」
「ふ……不満?」

何言ってるの!?
不満なのは、ハクのほうなんじゃないの?
竜族の本能を抑えて接しなきゃ、壊れちゃうようなやわな身体の私が奥さんで……貴方は我慢してばかりだった。

それが、とても申し訳なくて……自分が人間だということが、辛かった。
竜族の女性になりたかった。

カイユさんみたいな、竜族の妻になりたかった。

「りこ」
 
ハクは膝をつき、私へ腕を伸ばした。
異様なまでにゆっくりと……。
その手は、いつものように私を抱きしめるために動いたんじゃなかった。
ハクは私の腹部に白く大きな手を添え、身を屈め……両手の上に、自分の額をあてた。
私からは彼の表情は、全く見えなくなった。

「りこ。この胎に……」

彼が喋ると微かな振動がお腹の中に伝わってきた。
まるで小さな小さなハクの分身が、私の体内で同時に喋っているかのような……不思議な感じがした。

「異界人であるりこが、この胎に赤子を得る方法はある」

え?
私、妊娠でき……。

「生殖能力のある人間の男に抱かれれば良い。りこは異界人だが、この世界の人間とのかけ合せは可能だ」

なっ……!
 
「城を出て街に行き、そこいらにいる人間の男共と交わればいい」

ハ……ハク!?
 
「つがいにのみ強い執着を見せる竜族の雄と違い、人間の男は金銭を使ってまで女を欲しがる者も多い。娼館の前をうろつく輩に金は要らぬからと声をかければ、短時間で数人の男は集まるだろう」

独占欲がとんでもなく強いハクが。

「我以外と、交われば良い」

貴方が、そんなこと言うなんて。

「竜族の我と違って、りこの望みどおりに孕ませられる人間の男とな」

ハクが私の腹部から顔を上げ、私を見上げた。
その動きにあわせて緩やかにうねる髪が流れ、金の眼が露になった。

透明感の全く無い。
黄金の瞳。

「簡単なことだろう?」

ハク。
今の貴方の眼。
作り物みたい。
まるで、黄金で作った宝飾品のように綺麗。
とても綺麗。
でも、その眼差しは。
私を内側から凍りつかせてしまいそうななほど……冷たい。

そんな眼で私を見るなんて……。
こんな眼で、私を見ることが出来たなんて知らなかった。



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