四竜帝の大陸【青の大陸編】
「あはっ……さっきの、無しね。こんな私なんか食べたら、ハクちゃんが食中毒になっちゃう」
ごめんね、お母さん。
お母さんが望んだようには、なれなかったみたい。
りこ、幸せになるのよって……結納の日に、涙を浮かべて言ってたのに。
ハクがいない未来に、私の‘幸せ’は無いの。
ここには……この世界にはもう、私の居場所なんか無い。
「と、とりあえず……私、ここを出てセイフォンでお世話になろうと思う。生活はダルド殿下が保障してくれ……んひゃっ!?」
ハクが私の両方の耳たぶを無言でつまんで、軽く下にひっぱった。
感情が昂ぶっていたせいか、体温が上がっていたらしく……今の私には、そこに触れたハクの指先がいつもより冷たく感じた。
「……はぁ」
同時に溜め息が……えっ!?
「貴女のこの可愛らしい耳は、飾り物なのか?」
ハク?
耳が何……?
「この耳に我の言葉は、我の声が聞こえていなかったのか? 今まで何度も言ったと思うのだが」
指先で耳の内側をなぞるようにしながら……ハクは自分の額をこつんと、私の額と合わせた。
「ハ……ク?」
冷たい指先と、触れ合った額から伝わるひんやりとした温度。
それはじわりとじわりと皮膚から染み入って……荒れ狂う私の心をそっと、包み込んでくれた。
「ずっと、願っていた……貴女に強く求められたいと。我だけを望んでもらいたいと」
ハクの、願い?
「なに……言って……」
私に……求められること?
「う、そでしょう? 嘘でしょう? だって私……こんな私、嫌じゃないの?」
私は眼を開けて、ハクを見た。
「嫌? 何故だ? りこの言う‘こんな’という言葉が、りこのどの部分のことをさしとるのかが我にはよくわからん」
彼の顔を、眼を見たかった。
「ふむ。我のりこは少々記憶力が悪く、そして意外に疑い深い。これでは我はいろいろ心配で、りこを置いて男を根絶やしに‘お出かけ’などできぬ。……困ったものだな」
怖い。
とても、怖いけれど。
「この我に溜め息をつかせ、さらに困らせるとは……やはり、りこは凄いな。さすが我の選んだ女だ」
しっかりと見なきゃいけない、そう思った。
「何度でも。何百回でも、何千回でも我は言おう」
ハクの顔を見たいのに。
やっとの思いで眼を開けたのに。
ハクとの距離が近すぎて、金の眼に焦点をうまく合わせられなかった。
「この小さな脳がしっかりと覚えるまで。きちんと理解し、信じてくれるまで」
だから、私は何度も瞬きをしてみた。
そうすれば焦点が合うと思ったから。
なのに。
瞬きするたびに、視界はどんどん歪んでいった。
「我には」
ハクの金の眼は、すっかりぼやけてしまった。
それは……池に映ったお月様のようだった。
「ハクには、りこだけでいいのだと」
ごめんね、お母さん。
お母さんが望んだようには、なれなかったみたい。
りこ、幸せになるのよって……結納の日に、涙を浮かべて言ってたのに。
ハクがいない未来に、私の‘幸せ’は無いの。
ここには……この世界にはもう、私の居場所なんか無い。
「と、とりあえず……私、ここを出てセイフォンでお世話になろうと思う。生活はダルド殿下が保障してくれ……んひゃっ!?」
ハクが私の両方の耳たぶを無言でつまんで、軽く下にひっぱった。
感情が昂ぶっていたせいか、体温が上がっていたらしく……今の私には、そこに触れたハクの指先がいつもより冷たく感じた。
「……はぁ」
同時に溜め息が……えっ!?
「貴女のこの可愛らしい耳は、飾り物なのか?」
ハク?
耳が何……?
「この耳に我の言葉は、我の声が聞こえていなかったのか? 今まで何度も言ったと思うのだが」
指先で耳の内側をなぞるようにしながら……ハクは自分の額をこつんと、私の額と合わせた。
「ハ……ク?」
冷たい指先と、触れ合った額から伝わるひんやりとした温度。
それはじわりとじわりと皮膚から染み入って……荒れ狂う私の心をそっと、包み込んでくれた。
「ずっと、願っていた……貴女に強く求められたいと。我だけを望んでもらいたいと」
ハクの、願い?
「なに……言って……」
私に……求められること?
「う、そでしょう? 嘘でしょう? だって私……こんな私、嫌じゃないの?」
私は眼を開けて、ハクを見た。
「嫌? 何故だ? りこの言う‘こんな’という言葉が、りこのどの部分のことをさしとるのかが我にはよくわからん」
彼の顔を、眼を見たかった。
「ふむ。我のりこは少々記憶力が悪く、そして意外に疑い深い。これでは我はいろいろ心配で、りこを置いて男を根絶やしに‘お出かけ’などできぬ。……困ったものだな」
怖い。
とても、怖いけれど。
「この我に溜め息をつかせ、さらに困らせるとは……やはり、りこは凄いな。さすが我の選んだ女だ」
しっかりと見なきゃいけない、そう思った。
「何度でも。何百回でも、何千回でも我は言おう」
ハクの顔を見たいのに。
やっとの思いで眼を開けたのに。
ハクとの距離が近すぎて、金の眼に焦点をうまく合わせられなかった。
「この小さな脳がしっかりと覚えるまで。きちんと理解し、信じてくれるまで」
だから、私は何度も瞬きをしてみた。
そうすれば焦点が合うと思ったから。
なのに。
瞬きするたびに、視界はどんどん歪んでいった。
「我には」
ハクの金の眼は、すっかりぼやけてしまった。
それは……池に映ったお月様のようだった。
「ハクには、りこだけでいいのだと」