四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこ、りこよ。貴女が望むなら月に咲くという月雫花を採ってこよう、夜空の星を全て落して貴女に捧げよう」

永い時を生きる貴方の中には、子供を受け入れる【場所】が存在しないのかもしれない。

「りこにこの手を拒まれた時、我は……」

隠していた想いを引き摺りだされるほど、貴方に追い詰められたのは……私。
貴方にあんな事を言わせるほど、追い詰めてしまったたのは……私?

「我を欲してくれるなら……先ほどの言葉が真なら、子が出来ぬことを嘆かないでくれ。子の為に……我以外の為にそのように泣かれると、我はっ……先ほどよりもっと酷い言葉を吐き、惨い仕打ちをしてしまうだろう」

違うの。
私が泣いたのは子供のためじゃない。
貴方には、それが分からないの?

「我はりこを泣かせた。傷つける言葉を、わざと選んだのだ」

何かが床へと落ちて、小さな音をたてた。

支店でも耳にした、不思議な響き。
どこか懐かしいそれは……小学生の時に聞いた、鉄琴の音色のようだった。

「我がりこを、泣かせてしまった。壊れてしまえと、我を拒むなら壊してしまえと……。我は、我が怖い……」

ハクが泣いているのだと分かった。

真珠の涙。

「……泣かないで」

それは、貴方自身。

「そんなに泣いたら、ハクの中身が無くなっちゃう」

貴方のかけら。

「ハク……泣かないで」

広い胸に抱きしめられた私からは、ハクの顔が見えなかったけれど。
絶え間なく聞こえてくるかけらの音色が、私に貴方が泣いているのだと教えてくれる。

今、泣くなんて。

私を傷つけることが自分にできることを知り、怖いと泣くなんて。

なんて、ずるい人。
なんて、酷い人。

狂おしいほど、愛しい貴方。

「ねえ、ハク。私も自分が怖いって思うようになった……貴方を好きになってから」

強いのに、とても脆くて。
優しいのに……切ないほどに、残酷な貴方。

「愛って、なんなんだろうね……。この気持ちは、心は……どうなっていくのかな?」

私が死んでも。
貴方は、私を忘れたりしない。

できない。

きっと、貴方の心には<りこ>が残る。

そう、思えるようになったのは。
綺麗で真っ白な貴方の中に……真っ黒な何かを垣間見たから。

深い闇のような、貴方の心。

「ハク。さっきの言葉、そのまま返すよ? 私の言葉、ちゃんと訊いてたの? すごく長生きしてるみたいだけれど……耳が聞こえないほど、おじいちゃんじゃないんでしょう?」

それは私と同じ。
ううん。
私より深く、暗い……。

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