四竜帝の大陸【青の大陸編】

80

「ハクちゃん。私、顔を洗ってくる。このままじゃちょっと……」

私はハクちゃんの膝から降りた。
自分から降りた。
さっきと違って、素早くさっさと行動した。

私はこれからも、彼と一緒にいられるのだから……。
 
「顔を洗う? なぜだ、もう寝るのか?」

私が降りるとハクちゃんは長い足を組み、ソファーの背に両腕を……ふんぞり返ったその姿は、さっきまでのしおらしいめそめそ君の面影はゼロだった


切り替えが早すぎです。
でも。
その切り替えの早いところに、私はとても救われているのだと思う。

「違うよ。いっぱい泣いたし、それに……ぐずっ」

鼻をすすった私に、鼻水なんかとは無縁に違いないハクちゃんは……。

「りこ、鼻水が少し垂れておるぞ? 鼻水、りこの鼻水……よし! 責任を取って我が舐めるか!?」

鼻水垂れっ……気がつかないふりとかできないのかな、この人は!

「そういうことは、女性にはっきり言わないの! しかも、舐めるなんて……ばっちいでしょう?」

やたらなんでも舐めるのは、やめなさ~いっ!
 
「ばっちい……汚いという意味か? りこはばっちくない。鼻水が垂れようが、涎が出ていようが我のりこは綺麗で愛らしぞ? 安心するが良い、りこが鼻水を垂れ流しにしようと我の愛は変わらん」

「あ……ありがとう、ハクちゃん」

そのお顔で鼻水って単語を連発ですか。
しかも微妙に論点がずれてるし……私自身が汚いんじゃなくて、鼻水がって意味で言ったのに。
それがなんで、鼻水垂れ流しにからませての熱烈愛情宣言になるのかな?
なんかこう……複雑な気分というか。 
ん? 
よだ……!?
涎を垂らした覚えなんか、私にはありませんっ!

「とにかくっ! 私は顔を洗ってくるから。洗顔したらカイユさんのところに行って、2人で謝ろうね?」
「謝る? はて……何故だ?」

首を傾げるとその動きに合わせて、長い髪が揺れた。
本当に綺麗な髪の毛……なんて言ってる場合じゃない。
ハクちゃんって……ううっ。
しらばっくれてるんじゃなくて、本気で分かってない所が本当に困っちゃう。
  
「ハクちゃんは、さっきカイユさんの首を絞めたでしょ!? あれはとってもいけない事なの。怪我してるかもなんだよ!? 私もいろいろ謝らないと……言いつけ、破っちゃったし。あぁ、もうっ! 恥ずかしいこと、いろいろ言っちゃたよぉ~」

あわわぁ、思い出すと脳が沸騰してしまいそう!

「とにかく、あやまっつ……わわっ!?」

温室と居間の間の扉が激しい音をたてて開いた。
私がそこで見たのは……。

「トリィ様! トリィさ……トリィ、トリィ! 母様が迎えに来たわよ! 母様とお家に帰りましょう!? 離せ、この役立たず!」

カイユさんがダルフェさんに後ろから羽交い絞めにされつつ、上げた右足を下ろす姿だった。
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