四竜帝の大陸【青の大陸編】
幼いこやつはよく我の背に登り、張り付いておった。
特に不便も感じなかったので好きにさせていたが。
最近はせんな。
ちびのままのランズゲルグだが……一応、成竜になったからか?

「ランズゲルグ。その癖は春までに治せ」

背にくっつく癖同様、この癖も放っておけば自然と無くなるのかもしれんが。
我が去るまでに、治させた方が良い気がした。
頭を抱えるようにして顔を隠していたランズゲルグが頷いたのを確認し、我は南棟へと戻った。
 
シスリアの試験を終えたりこが、転移して戻った我を微笑んで迎えてくれた。




数時間前のことを思い出しながら。
眠るりこの顔を楽しんでいた我は、その手元へと視線を移した。

花。

りこは花が好きだ。
<青>が衣装室に用意しておいた宝飾品を見ても困ったような笑みを浮かべ、自ら進んで身に付けようとする事はなかった。

我のりこは花が好きなのだ。
花を髪に挿してやると、嬉しそうに微笑んでくれる。
色のついた石は見た目は良いが香りが無い、だから花のほうが好きなのだろうか?
花は食えるものもあるが、石は食えんしな。

カイユがりこにと持ってきた、藤籠に溢れんばかりの色とりどりの花々。
これは出荷できぬ規格外のもので、昨夜のうちに城内へと大量に運び込まれ<花鎖>用に無料配布されているのだとカイユが言っていた。
温泉の熱を利用して栽培をしているので真冬だろうと、帝都では花の出荷が行われている。

自然界で花々が姿を消す時期に出荷すると、数倍の値になるのだと<青>が言っていた。
先代の<青>は繁殖実験にのめり込み、散財した。
そのために、後を継いだランズゲルグは幼い頃より金の工面に明け暮れた。
今では金儲け自体が菓子作りと同様に、趣味になっているようだが……。
趣味。
菓子作りを趣味にしとるのは、ダルフェも同様か。 
りこに<花鎖>の編み方を教えながら、ダルフェが息子を連れジャムと砂糖漬けを作るために雌共に混じって花を貰いに並んでいるのだと、カイユが苦笑していた。

<花鎖>は雌が作るものなので、普通の雄は遠巻きに花の配布を眺めることはあっても自らは並ばんからな。
趣味……我の趣味はなんであろう?
ころころか?

「むっ……落ち葉よ、何故我のりこに落ちてくるのだ。りこは我の妻だぞ、勝手に触れるな」
 
りこの艶やかな黒髪に、温室に植えられたカヤの葉が1枚。
我はりこを起こさぬように細心の注意をはらい……そっと手を伸ばし、葉を取り除いた。
りこの髪を飾るべきは、作りかけの<花鎖>だ。
カヤではない。


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