四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ダルフェ、見て。真夏の花なのに……遅れて咲いたせいか、色が薄いわね」
「あぁ、今の時期に咲くなんて珍しいなぁ~」

 木の根元に隠れるように咲く青い花。
 私の小指の先ほどしかない、小さな小さな花。

 求婚する時。
 ダルフェはセランで作った小さな花束を、私に差し出した。

 小刻みに震える手で。

 あの時は、ばらばらだった体がまだ安定していなくて。
 1日の大半は溶液の中にいなくてはならないような、酷い状態だった。

 継ぎはぎだらけの。
 歩くことさえ困難な、あの身体で。

 地面に生えた小さなセランを摘み。
 花束を作った。
 
 
 私のために。

 
 セランを受け取ると同時に泣き出した私に驚いたのは、目の前の雄以上に……私自身だった。

 涙。

 母様が死んだときに、一生分使い切ったと思っていたから。

 これと出会った時。
 頭部以外はまともな形をしていなかった。

 死体だと思った。
 でも、緑の瞳が私を見たから。
 燃え立つような、鮮やかな緑色。
  
 その眼を見て。

 これは私の‘つがい‘だと。
 あの眼を見て、すぐに分かった。

 赤の大陸から来た、私の雄竜。

 私のつがい。

「ハニー。親父殿に報告したら宿舎に帰って飯食って、昼寝をしような? 子供達のためにも栄養たっぷりとんなきゃ。デザートにハニーの好きなカカエのプリン、作ったんだぁ~」

 腹の子の父親。

「昼寝はしない。午後は鍛錬場で過ごすわ。セイフォンの事を考えるとイライラして、しょうがないの。体を動かして気分転換したい……」

 ダルフェ。
 私のお腹には。

 子供達は、この子は……。

 駄目。
 言えない。
 
 言えない。
 口にしたら、きっと……私、泣いてしまうから。

 私は強くなきゃ駄目。

 強く。

 貴方を笑って送り出せるほど、強くならなくては。
 貴方の前では、強い私でいなくちゃ駄目。


 先に逝く、貴方の為に。


 強い妻であり続け、強い母になってみせる。

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