四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ダルフェ。後はよろしくね」

御者台から降りたカイユが、俺達とは反対方向に向かおうとしたので殿下がカイユに声をかけた。

「カイユ殿、どちらにいかれるんですか? 昼食は……」
 
外套を羽織ったカイユは指先で刀の鍔をなぞりながら、嫌悪感を隠さず吐き捨てるように言った。

「寄るな、喋るな。『荷物』が私にしゃべり掛ける権利など無い」

カイユの言葉に、ダルド殿下は口を噤んだ。

「殿下、カイユのことはかまわんでください。店に入りま……」
「ま・待ってください、カイユさん! あの、トリィ様はっ」

術士の少女がカイユに走り寄って、カイユの外套を掴んだ。

「……私に触るな、人間」

冷気さえ感じるような声音に、少女は一瞬大きく震えてから固まってしまった。
離すに離せないその手を、俺がカイユから離してやった。

「お嬢ちゃん。質問は、このお兄さんにしなさいな」
「あ……私……カイユさん?」

紫の瞳が困惑の色を隠さず、俺を見上げた。
カイユは離宮で、この少女には寛大だった。

口もきいてやったし、茶や菓子も微笑みながら出してやっていた……この術士がまだ幼かったからだ。
出産した今、カイユの母性は元に戻った。
本来の人間嫌いが全開だ。
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