四竜帝の大陸【青の大陸編】
「術士ミー・メイ。お前は我が妻の望みを叶えるため、術式の練成に励め。我等はこの大陸を去るゆえ、定期的に<青>の監査を受けろ」

ダルド殿下の身体は微動だにしなかった。

「我はお前等を<処分>せぬ」

動かないんじゃなくて、動けない……?

「我はお前等を殺さぬ」

ハクちゃんの翼が広がり、ダルド殿下の表情が私には全く見えない。
ダルド殿下の左隣に立っているミー・メイちゃんは私の視線に気がつくと、ゆっくりと顔をあげた。

彼女の唇はプールで遊びすぎた子供のように紫で、小刻みに震えていた。
潤んだ大きな瞳が、私を見た。

何か言いたげに口が微かに動いたけれど……声が出ないようだった。
ハクちゃんとの距離が近く、怖がってるのかもしれない。
あんなに怖がるなんて……ハクちゃんに、こっちへ戻ってきてもらおうかな?

「ハクちゃっ……」
「ミー・メイ、セイフォン・シーガス・ダルド」

ハクちゃんがそう言うと。
ミー・メイちゃんの震えが止まった。
紫の瞳を見開き、私とハクちゃんを交互に見た。

「ミー・メイ。お前は術式が仕上がったら、その後は生きるも死ぬも自由だ。セイフォン・シーガス・ダルド」

 動きを止めた翼が、私からダルド殿下の表情を完全に隠していた。

「お前は“生きる”のだ。セイフォン・シーガス・ダルド」

私からは、ダルド殿下の顔が見えない。

「覚えておけ。セイフォンの皇太子」

見えるのは、ハクの白い翼を広げた後姿だけ。

「我がこの世で最も嫌いなモノは、お前だ」

え?

「ハクちゃ……ん、今……」

今、さらっとすごいこと言わなかった?


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