四竜帝の大陸【青の大陸編】
庭に行くことをダルフェさんに止められた私は、洗面所で顔を洗っていた。 
『なぁ、ハニー。奥の衣装室の鍵を開けてもらえるかい?』
『奥の? あそこは……まさか、裸の変質者って』

カイユさん達の声は聞こえてくるけど、内容までは分からなかった。

「……っ」

冷たい水を顔に叩き付けるようにして、乱暴に洗った。
某百貨店で化粧品を売っていた時、お客様にはやってはいけない洗顔方法の1つだと言っておきながら……。

肌に悪くても、心には効いた。
冷たい水はしおしお・ぐるぐる・どろどろになっていた思考回路をもどしてくれた。

私はハクちゃんの側にいたら、駄目なのかもしれない。

でも、元の世界にもどることが現時点では不可能。
ダルド殿下にお世話になるしか生活の術が無い今の私では、ハクちゃんから離れるために王宮の敷地から出ることも難しい。

ここを飛び出してこの世界で……知らないことばかりの場所で、言葉も知識も無い状態でうろうろ彷徨うなんて自殺行為だ。

26にもなると冒険より平穏。
挑戦より安定。

ハクちゃんと話し合ってつがいを解消させてもらおう……。
あぁ、気が重い。

前につがいになれないって言ったら泣いちゃった(内臓が溶けたらしい)し、言動もおかしくなっていた。
穏便に解決するには、どうしたらいいんだろう?

「……」

本音を言えば。
ハクちゃんといたい。

私の事を……私だけを大事にしてくれる人(ハクちゃんは竜だけど)なんてこの先、絶対にいないのに。
 
ハクちゃんは私がからんだ事柄になると、途端に凶暴になるから……最初の頃は、かわいい焼きもち程度にしか考えてなかった。

でも。
それが最近は特にエスカレートしてきていて、離宮の敷地から私が出ることすら許してくれなかった。

ダルド殿下が来ても門前払い。
彼がセシーさんに預けた私宛の手紙も、読む前に燃やされた。
  
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