四竜帝の大陸【青の大陸編】

93

寸胴鍋の中で泳ぐパスタを眺めた。

ダルフェさん作の踏み台に乗り、覗き込むようにして……。
あつっ……蒸気が顔にあたって、毛穴が開きそう。

お湯の中で絡まりそうで絡まずに、上下左右に激しく踊るパスタの姿はなんだか今の私の気持ちみたいだった。

答えは出ているのに、あっちこっちへとぐらついて……。
ああ、私って。
なんでこんななんだろう。

「トリィ様、火力を少し弱めましょうか? ……トリィ様?」

重たそうな鋳物のお鍋に入ったトマトソースを横で温め直していたカイユさんの声で、マイナス思考に陥りかけていた脳をあわてて引き戻した。

「は、はい。そうですね! これじゃ、吹き零れちゃいますよね!?」

火力調整のレバーを少し戻せば、火は直ぐに適度なものへと変化した。
でも、頭の中で浮かんでいたダルド殿下の蒼白な顔とセレスティスさんの満足げな微笑は、この火のようには抑えられず……消えてくれなかった。




< 651 / 807 >

この作品をシェア

pagetop