四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ハクちゃん?」

食欲が無くても食べなきゃならないのは、ハクちゃんが心配するからっていうのが大きな理由だけど。
そのハクちゃんが半強制的に私に‘あ~ん‘をするせいでもある……のに。
ハクちゃんはフォークをパスタに突き刺す寸前の姿勢で、置物のように固まっていた。

「どうしたの?」
「りこ。実は……我はまだくるくるがうまくできんのだ」
「くるくる?」

くるくる……あ!

「麺類をフォークに巻くのは、まだ習得しておらぬのだ」

なるほど。
うん、これはある意味好機なんじゃないの!?

「あのね、ハクちゃん。パスタを‘あ~ん‘ってするのはとっても難しいから、パスタ……麺類の時はやめない? 私、自分で食べ」

言いかけて、やめた。
大きな金の眼が私を見上げて、中央にある縦長の黒い瞳孔がシャーペンの芯のように細くなったから。
あわわ、ご機嫌斜め!?

「りこ、期待に添えぬ我ですまぬ。そのように残念そうな顔を……そんなにも、りこは我にあ~んされたいのだな」

は?
あれれ? なんでそうなるの!?

「案ずるな、我は“くるくる経験値”が足りておらんだけだ! これからは夜の<お勉強>の項目にくるくるも加えて精進するぞっ。どれ、少々練習をしてみるとしよう」

ハクちゃんはフォークを両手で持ち直して背をそらせ、反動をつけて一気にお皿の中央に振り下ろし。
その勢いのまま、両足を踏ん張って円を描くようにフォークを動かした。

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