四竜帝の大陸【青の大陸編】
セイフォンの皇太子を陛下の元に連行……じゃなく、御案内した俺は。

「陛下、ダルド殿下をお連れ……げっ!?」

開けたドアを、閉めたくなった。
正面の窓から見える庭。
目に入ってきた庭のそれが、出した足を後退させた。

「じゃ、失礼します! 俺はジリを迎えに行こ……」

背後に居る皇太子君を置き去りにしてとんずらしようとした俺を、青い竜が目ざとく見つけて制止した。

「あ!? てめぇ、こらぁああ! 逃げんなダルフェエエエエ~!!」

ぱたぱたと青い翼を小刻みに動かして怒鳴った青の竜帝陛下の右手には、白い手袋が握られていた。

「……陛下、それは?」

陛下は手袋をしない。
刃物が好きな俺の母と違い、刀を持たないこの竜帝は自分の爪を使う。

爪を伸ばすたびに手袋を駄目にするなんてこと、金にうるさいこの坊ちゃんはしないからだ。
大陸トップクラスの金持ちのはずなんだが……竜族のためには湯水のように金を使うクセに、自分のこととなると倹約家で質素を好む。

「……これは、これはだな! 落っこちてたっていうか、落ちてきたっつーかっ」

言いながら、陛下の視線が一瞬庭へ……ああ、なんか嫌な予感がするんですけど。

「正直に言いなさいな、陛下」
「じじいが……ヴェルがここに落としたんだと思う」
「……そうでしょうねぇ」

予感じゃなくて、確定だな。


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