四竜帝の大陸【青の大陸編】
「あの御方は……まさか……陛下、あの御方は……」
「はぁっ……」

呟きのような問いに返されたのは、青い竜の溜め息と悪態。

「なんのために俺がセイフォンで記憶を……ったく、自己中俺様クソじじいめっ! ぐわぁああ~、むかつくぅうううう!!」

尾を激しく上下に動かし、小さな手で自分の頭をがつんがつんと連打するかなり情けない状態の青の竜帝の姿に目を向けることなく、皇太子の眼は庭の一点から動かない。

「あれは……黒い髪の女性は、トリィ殿……あのように触れているということは……あれが<監視者>の人型?」

セイフォンの皇太子が言葉を詰まらせ、何かに押されたかのように後ろへと背がそり、足が数歩下がる。

それは。

黄金の眼が、こちらを流し見たからだ。

「…………うわっ!? 旦那、怖ぇ~」

旦那はすぐにその視線を戻し。
身をかがめ、囲い込むように抱いていた腕をずらし……黒い髪を指先で梳いた。
ほんの少し、姫さんの顔が露になる。

そして。
顔を寄せ、唇を重ねた。

それはすぐに、離れたここからでも分るほど深いものへと……。
人間である皇太子達より視力のいい俺と陛下には、皇太子達以上に見えちゃってるわけで。

「あ~あ、なんでここでそうきますかねぇ」

元から青い陛下が青ざめてるかどうかなんて、はっきり言って分からない。
まあ、どっちかっていうと、陛下は赤くなってんじゃないのかねぇ。
他の連中は……見る間でもない。

旦那。
確信犯っすね?

あんたは、ちゃんと分かってる。
自分の人型がここにいるセイフォンの人間達に、こいつらそれぞれに与えるその意味を。

< 709 / 807 >

この作品をシェア

pagetop