四竜帝の大陸【青の大陸編】

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「メリルーシェの第二皇女が、おちびにちょっかい出すなんてっ……ぐわぁああ~! だからちゃんと別れてこいって、あの時俺様が言ったのにぃいいい~っ! ヴェル、どうすんだよ!?」

<青>は結い上げた髪を掻き毟り、言った。
我は、答えた。

「あの時も今も、我は忙しい」

前の時は、りこが与えてくれた重石が行方不明になっており。
今は……。

「急いで戻らねば、りこが風呂から出てしまうではないかっ!」

りこは入浴中なのだ。
間に合わねば、我は身体を洗ってもらえぬ。
糞尿も汗も排出せぬこの身は汚れておらず、洗浄する必要は無い。
だが、我はりこに洗って欲しいのだ!

「そんなこと、偉そうに言うな! このエロクソ鬼畜じじいっ!!」
「ランズゲルグよ」

唾をとばして喚く<青>に、我は以前から疑問に思っていたことを訊いた。

「お前がよく使用する“えろ”とはどういう意味なのだ? 糞と鬼畜と爺は分かるのだが、“えろ”は我には分からぬ」
「っ!?」

口を開いたまま固まった<青>を、右手に海綿・首にタオルをかけ入浴準備万全の状態で執務室の床に立ち、我は見上げた。

「くっ! この箱入りじじいめっ……エロの意味はっ、意味は! 俺様にはとても口にできねぇっ……ダルフェにパァアア~スッ!」

<青>は扉の前に立っているダルフェに向かって、両手を突き出した。

「陛下、今の俺には無理っす。見りゃわかるでしょうっ!?」
「離せ、ダルフェ! そこの馬鹿共を殴らせてちょうだいっ!!」

拳を振り上げるカイユを、ダルフェが背後から押さえ込んでいた。

「馬鹿って……じじい、カイユのご指名だぜ? 殴らせてやれよ」
「カイユは“共”と言っておったぞ? つまり、お前も馬鹿に含まれておるのだ」
「え? 俺様もっ!?」

我は床を蹴り、<青>の頭に乗った。
持っていた海綿でその頭頂部を軽く叩いた。

「ふむ、背だけではなく脳も伸び悩んでおるようだ。お前の脳はこの海綿のようなのかもしれんな」
「がぁああ~! 俺様の脳が海綿だって!? ふざけんなっ、このボケがぁああ……うっ、ごめんカイユ! そんなに睨むなっ、怖いじゃねぇか……じゃなくてっ、美人が台無しだぞっ!?」
「…………」
「ううっ、だからごめんって!」

無言でありながら確かな圧力を感じるカイユの冷たい視線に、現四竜帝で最強の個体であるはずのランズゲルグは、少々腰が引き気味だった。
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