四竜帝の大陸【青の大陸編】

15

『全軍、戦闘態勢に入れ! これより青の竜帝を迎え撃つ!』

セシーの言葉に、室内が凍りつく。
私が異論を唱える前に、リシサス老がたしなめた。

『冗談はよしなされ。ほれ、王がちびりそうだぞ?』
『だって。言ってみたかったんですもの』

真っ青な顔で口元を押さえる父の背を、ゼイデがさすりながら叫んだ。

『このクソばばあ! 王をショック死させる気か!』

セシーの方がゼイデより若いのだが……平和だなと思う。
この平和が続くように皇太子として、何が出来るのだろうか?

セシーの報告で青の竜帝様がセイフォンにもうすぐ到着なされることがわかり、対応を協議するために集まったはずだった。

『話し合ったって無駄でしょう。結論は出ています』

イラス・ドウ・ゲドリルは帳簿から眼を話さず、続けて言った。

『竜帝様が異界の娘を帝都に連れて行くと言うなら、我々には拒むことは出来ない。ま、他国に取られるよりもずっとマシです。セシー殿だって分かってるんでしょう?』
『分かっているわ。……殿下』

ゼイデに担がれて医療室に向かった父を見送っていた私に、セシーが恨めしげな顔を向けた。
はっきりいって少々、怖い。

この女傑に私は頭が上がらない。
去年亡くなった母上の従姉妹である彼女。
母にとてもよく似ている……容姿だけだが。
母はこんなに苛烈な性格ではなかった。

『殿下が竜帝様にトリィ様のことを相談されたから、カイユ殿達がトリィ様付きになってしまったんですわよ? 彼女の周りは‘親切で優しいセイフォン人’で固めたかったのに。お恨みいたしますわ』
『……セシー。私は彼女には誠実でありたい。セイフォンの為に利用するつもりは無い。それにそのようなことは<監視者>様が許さないだろう?』

つがいとは……伴侶だときいた。
我々王族では婚姻も政治の一部だが、竜族にとっての伴侶は神聖で絶対なものらしい。
利用される事を知ったら、逆鱗に触れてしまうのでは?
セシーは耳飾りを右手でいじりながら言った。

『あの方がその気になれば、我々の頭の中など丸見えですわ。何の報復も無いということは、黙認なさったからです。もっとも……それももう終わりのようですが』
 
耳飾を引きちぎるように外し、セシーは叫んだ。



『ミー・メイ! 急いで!……来るわっ!』



私の前にミー・メイが現れ、術式を展開した。
足元から青白い光が溢れ、円状に広がり……霧散した。

『閣下! 駄目です、結界がっ』
『……っち!』

耳飾りが変化した長剣を構えたセシーが会議室の中央に走り、何も無い空間に剣を振り上げた。

私とリシサス老。
そしてイラスはただ呆然と立ち尽くし……。 
 
 

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