四竜帝の大陸【青の大陸編】
『意外と早く手合わせすることになったなぁ、閣下』
赤い髪の竜族。
青の竜帝の使者として一ヶ月前に会った。
確かカイユ殿……竜騎士の夫だと紹介された人物だ。
セシーの大剣を細身の優美な剣で軽々と受け、弾いた。
金属特有の甲高く澄んだ音が響く。
激しい剣技のやり取りが繰り広げられているというのに、私の眼はある一点から離れない。
離すことが出来ない。
白。
真珠の輝き。
氷の冷たさ。
金。
黄金の光り。
灼熱の炎。
『<白金の悪魔>……“ヴェルヴァイド”?』
リシサス老の、かすれた声。
しろがね の あくま
私でも見上げてしまう長身。
金糸の刺繍が施された漆黒の長衣。
純白の長い髪は緩やかに波うち、流れ……。
身震いするほどの白皙の美貌は微動だにせず。
金の瞳に移るのは、血の気の引いた私の顔。
『そ、そんな馬鹿なっ!? 大昔に<監視者>様に<処分>された伝説の悪魔?』
イラスの震えた声。
その震えが、世界の青を統べるかのように美しいあの方の言葉を私の脳から引き出した。
――ヴェル……ヴェルヴァイドってのは【古の白】って意味だ。<監視者>の通り名だがお前は使うな。
<白金の悪魔>は御伽噺だ。
それは、偶然の一致に過ぎないはずだ。
<悪魔>は美麗な姿で人を惑わせ、堕とす。
<監視者>は世界で唯一『白』を持つ竜。
全く違う存在なのだからと、気に留めた事も無かった。
『旦那! いきなり術式で連れてこられて……閣下が切りかかってきたから相手してますけどね。俺的には全く状況が分からんのですが』
セシーは無事か?
まさか!
赤い髪の……確かダルフェ殿だ。
ダルフェ殿はセシーの大剣を細い剣で受け止め、左手を大剣の刃に垂直に振り下ろした。
『くっ!』
音を立てて折れた刃が床に落ちた。
セシーは剣を捨て、ダルフェ殿の頭部に回し蹴りを……。
『きゃぁ! 閣下!』
ミー・メイが悲鳴をあげる。
ダルフェ殿はセシーの足首を掴み、そのまま壁に向かって放り投げた。
セシーは壁に激突……せず、壁を足場にし着地した。
『ふふ。お優しいのね、ダルフェ殿は』
ほつれた髪をかきあげて妖艶な笑みを浮かべたセシーにダルフェ殿は苦笑しながら答えた。
『閣下は姫さんの先生ですからねぇ。あんたを殺したら姫さんに嫌われちまう。俺はあのおちびちゃんには、嫌われたくないんですよねぇ。どうすっかな~』
『殺せ』
深く艶のある声が室内をめぐり、落ちた。
『それも。あれも。これも……不要だ』
『旦那?』
<白金の悪魔>はまったく表情の無い顔で、感情の感じられない声で言った。
『セイフォンはいらん』
<冷酷なる魔王>が告げた言葉に私は……。
赤い髪の竜族。
青の竜帝の使者として一ヶ月前に会った。
確かカイユ殿……竜騎士の夫だと紹介された人物だ。
セシーの大剣を細身の優美な剣で軽々と受け、弾いた。
金属特有の甲高く澄んだ音が響く。
激しい剣技のやり取りが繰り広げられているというのに、私の眼はある一点から離れない。
離すことが出来ない。
白。
真珠の輝き。
氷の冷たさ。
金。
黄金の光り。
灼熱の炎。
『<白金の悪魔>……“ヴェルヴァイド”?』
リシサス老の、かすれた声。
しろがね の あくま
私でも見上げてしまう長身。
金糸の刺繍が施された漆黒の長衣。
純白の長い髪は緩やかに波うち、流れ……。
身震いするほどの白皙の美貌は微動だにせず。
金の瞳に移るのは、血の気の引いた私の顔。
『そ、そんな馬鹿なっ!? 大昔に<監視者>様に<処分>された伝説の悪魔?』
イラスの震えた声。
その震えが、世界の青を統べるかのように美しいあの方の言葉を私の脳から引き出した。
――ヴェル……ヴェルヴァイドってのは【古の白】って意味だ。<監視者>の通り名だがお前は使うな。
<白金の悪魔>は御伽噺だ。
それは、偶然の一致に過ぎないはずだ。
<悪魔>は美麗な姿で人を惑わせ、堕とす。
<監視者>は世界で唯一『白』を持つ竜。
全く違う存在なのだからと、気に留めた事も無かった。
『旦那! いきなり術式で連れてこられて……閣下が切りかかってきたから相手してますけどね。俺的には全く状況が分からんのですが』
セシーは無事か?
まさか!
赤い髪の……確かダルフェ殿だ。
ダルフェ殿はセシーの大剣を細い剣で受け止め、左手を大剣の刃に垂直に振り下ろした。
『くっ!』
音を立てて折れた刃が床に落ちた。
セシーは剣を捨て、ダルフェ殿の頭部に回し蹴りを……。
『きゃぁ! 閣下!』
ミー・メイが悲鳴をあげる。
ダルフェ殿はセシーの足首を掴み、そのまま壁に向かって放り投げた。
セシーは壁に激突……せず、壁を足場にし着地した。
『ふふ。お優しいのね、ダルフェ殿は』
ほつれた髪をかきあげて妖艶な笑みを浮かべたセシーにダルフェ殿は苦笑しながら答えた。
『閣下は姫さんの先生ですからねぇ。あんたを殺したら姫さんに嫌われちまう。俺はあのおちびちゃんには、嫌われたくないんですよねぇ。どうすっかな~』
『殺せ』
深く艶のある声が室内をめぐり、落ちた。
『それも。あれも。これも……不要だ』
『旦那?』
<白金の悪魔>はまったく表情の無い顔で、感情の感じられない声で言った。
『セイフォンはいらん』
<冷酷なる魔王>が告げた言葉に私は……。