四竜帝の大陸【青の大陸編】
「旦那?」

瞬き一つしない黄金に瞳。
彫刻されたように、動かない表情。 

「……旦那、どうしたんです?」

俺の問いに、口は動かず。
動いたのは、旦那の手。
左手を色素の薄い唇にあて、旦那は動きを止めた。

「だん……ヴェルヴァイド?」 
「ヴェル!」

青い竜が、空から垂直に降り立った。
温室の天井は見事なまでに消え、澄んだ空が広がっていた。

「うわっ!? 血だらけじゃねぇかっ! おちびはっ!? 皇女はどうし……じじい?」
「…………」

床に立ち、翼をたたんだ陛下は膝をついたままの旦那を見上げ。

「おちびはどこだよ!? なにがあったんだよ、ヴェルッ!」

返事をしない旦那に苛立つように、声を荒げて言った。
真っ青な爪を持つ4本指の手が、旦那へと伸ばされると。

「……我から離れろ<青>。汚れる」

だんまりだった旦那が、喋った。
その言葉に、陛下の手が止まる。

「は? 汚れる?」
「間に合わんな……すぐに風呂へ行け。お前は“綺麗”でなくてはならぬのだ」

黄金の目が。
小さな青い竜を見ながら。
ゆっくりと、伏せられた。

「え?」
 
ゴトンと、鈍い音。
真っ赤なカーテンが舞うように広がり、旦那と陛下を覆い尽くした。
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