四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ヴェッ……な……なんだよ、これ?」

血溜まりに落ちたそれに。

「…………ヴェッ……」

短い足をもつれさせながら、陛下がそれへと歩み寄る。
 
「ヴェルーッ!!!」

濡れた床に足を滑らせ、転んだ青い竜はそのまま床を這い。
全身を使って、旦那の頭部を抱き抱えた。

「だ、んな……」

旦那の頭を必死に抱える陛下の目の前には。
いくつかに分れてしまった、旦那の身体。
黒いレカサが血潮を吸い、重厚な艶を手に入れていた。

「……ヴェル、ヴェルッ!? どうして元に戻らないんだよぉ! ヴェルは死にたくても死ねねぇんじゃなかったのかよ!?」

陛下は旦那の頭を元に戻そうと、床に伏せられた胴に……それがあるべき場所に、ぐいぐいと切断面を押し付けていた。
俺は指先すら動かすことができず、ただそれを眺めていた。

「くっつけ! さっさとくっつけろって言ってんだよ、このクソじじい! 頼むからくっついてくれよっ……」

そうだ。
旦那はいつだって、何があったって『大丈夫』だと。

「なんでくっつかないんだよぉ……なんで心臓止まってんだよ? 死にたくても死ねないんじゃなかったのかよぉおおおおおお!! うわぁああああ! イヤだ、こんなのイヤだよっヴェル! ヴェルー!!」

青い竜の絶叫が、俺の脳を揺さぶり砕く。

「う……そ、だ」

俺は、俺達は思っていたんだ。
<ヴェルヴァイド>は『永遠』なのだと。
餓鬼の時に握ったその手の冷たさと、大きさを。
今も、覚えている。

「だ、旦那」

初めて会った時から、その真珠色の髪も黄金の瞳も変わらなくて。
変わったのは自分の方で。
目に見える『永遠』が、あんただったんだ。

永遠。
人間達は、それを『神』と呼ぶのだろうか?

だから。
陛下も俺も。
この事態を認識できない、理解できない。 
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