四竜帝の大陸【青の大陸編】

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--母さんの所に帰っていらっしゃい、ダルフェ。

「……」

<赤の竜帝>の使っていた伝鏡も他のものと同じように専用の布で覆い、俺は伝鏡の間の扉へと足を向けた。

「赤の大陸に戻るべきか? でも、今は姫さんを探すのを優先してぇしなぁ。どうすっかな~」

各大陸の竜族が姫さんを探すとして。
小柄で黒髪の人間の娘なんか、無数に存在する。
あの子は人目をひく飛び抜けた美しい容姿でもないし、顔の作りにこれといった特徴も無い。

絵姿すらないあの子を探す手がかりは、金の目だけだ。
旦那と同じ、あの黄金の瞳だけ……。
竜族だって旦那に会ったことがあるって奴の方が少ない。
本物を見た事の無い奴等に旦那と同じ目玉って言ってもなぁ~。

「う~ん。あっちに戻って、俺が赤の竜騎士団の指揮とったほうが効率いいか?」

赤の大陸での捜査には、姫さんをよく知る俺が……そうすっと、黄と黒の大陸にも姫さんを知ってる青の竜騎士を派遣したいところだが。

「舅殿が導師関係で動いてる……この状態で、青の竜騎士を手薄にすべきじゃないねぇ。ただでさえ人数少ないんだから、無理だなぁ」

伝鏡の間の扉を閉め、背を預けた。
寄りかかると、溜め息が出た。
吐き出したのは息だけではなく。

「……母親にあんな顔させるなんて、俺もまだまだ餓鬼ってことだねぇ」

自己嫌悪が情け無い声音とともに、俺の口からこぼれる。

つがいと出会い、夫になって。
子を得て、父親になったのに。

大切なもの全てを守る力が、強い心が俺には足りない。
俺はまだ、こんななのかよっ!

「…………畜生ッ」

背に当たる固い感触が、妙に居心地が良くて。
俺はしばらく、動けなかった。

 

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