四竜帝の大陸【青の大陸編】
俺と陛下の先を歩くカイユは折れた骨組みと瓦礫が散乱する温室を足早に通り、居間へと繋がる扉を開けた。

扉を開けたカイユはそのまま奥へと、足を進める。
カイユは池に引っかかっている変わり果てた皇女を一度も見なかったが、陛下はその前で足を止めた。

「……メリルーシェの第二皇女がおちびと同じ名前だって、ダルフェは知ってたか?」

陛下は池の縁にひっかかっているそれを、壊れ物を扱うかのように両手でそっと持ち上げると床へと置いた。

「知ってましたよ。まぁ、知ったのは昨夜ですけど。魔薬の件で調べた時に知ったんです。旦那は知りませんでしたよ。あの人らしいっちゃ、らしいですけどね」
「そうか。……あとで支店のバイロイトから、メリルーシェの王に連絡をいれさせる。遺体を国に帰してやらなきゃな」

娘の死を知ったメリルーシェの王がどう出るか。
皇女の死の理由と原因を、どこまで明かすか。

「……そうですね」

まぁ、支店長のバイロイトが間に入るなら、うまくやるだろう。
あっちにはセレスティスも……舅殿は王子様面してやることが過激だが、頭は切れる。

あの2人だけじゃなく、さらにクロムウェルもいるんだしな。
全て任せて大丈夫だろう。

「……あれ? カイユ、どうしたんだ? ヴェル、いねぇのか?」

室内に入ると、開かれた寝室の扉の前にカイユが立っていた。

「ハニー?」
「……」

陛下と俺の声に振り向いたカイユは、主である陛下にその場所を譲るように無言で数歩下がった。
陛下はそんなカイユの様子に微かに目を細め、寝室へと足を踏み入れ……3歩半で止まった。

「なっ……なんだよ、これ……」

つぶやくように言った陛下の靴先は、柔らかな波に埋もれていた。
その波をつくっているのは、思いがけないものだった。
床一面に散乱した布切れが、陛下の足の進入を拒んでいた。

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