四竜帝の大陸【青の大陸編】
「陛下、これ……服ですよね?」
陛下は姫さんのためにあらゆる色の服を用意した。
どんな色や素材があの子の好みか分からかった陛下は、必要以上に多くのものを揃えて‘じじいのつがい’を迎え入れた。
「ああ、おちびの服だ。納品のさいにはこの俺が、ひとつひとつ確認したからな」
「じゃあ、これは……服だったってことですね」
衣装室にしまわれているはずのそれらで、室内が鮮やかに彩られていた。
引き裂かれ、千切られて。
布切れに成り果てて。
細切れになった色達が床一面に重なり合う異様な光景は、声にならない絶叫を俺の脳へと叩きつけてくる。
無音のそれは、狂気の匂い。
「じ……じじい?」
そこだけ切り取られた異空間のような、大きな寝台。
全く乱れのない寝具の上に、うずくまるは小さな白い竜。
旦那は小さな両手で赤い格子模様の布を握りしめ、それに顔を埋めていた。
押しつけるように。
すがるように。
微動だにせず。
その布……姫さんが旦那に贈ったそれは、あの子がこの世界に落とされた時に身に着けていた異界の衣類。
その衣類を使って、姫さんは旦那に贈り物をした。
旦那は少々色褪せた生地で作られたそれを『宝物』だと言い大切に、大切にしていたのを俺は知っている。
「ヴェ……ヴェルッ……」
陛下はその場に、すとんと座り込んでしまった。
その背を流れる長い髪が色の洪水の中に、青を加えた。
どんなに多くの色があろうとも。
陛下の青はなにものにも染まらず混ざらず、そこにある。
「……だ……んな……」
消えたつがいの残した香りを、気配を、想いを求め。
無力な赤ん坊のように……尾で自分の身体を守るかのように丸くなり、『世界』を拒むその姿。
自分の傍らにつがいの居ない世界、その現実を拒否しているのかのような。
そこに居るのは、最強の竜ではなく……。
その姿を、これ以上見ていられなくて。
見てはいけない気がして。
俺は、目を閉じた。
「……陛下、私達は外でお待ちしています。行くわよ、ダルフェ」
カイユは深々と一礼し、俺の左腕を掴んで退室を促した。
俺の腕を掴むその手が、指が。
肉だけでなく心にも食い込んで。
俺を、支えてくれた。
陛下は姫さんのためにあらゆる色の服を用意した。
どんな色や素材があの子の好みか分からかった陛下は、必要以上に多くのものを揃えて‘じじいのつがい’を迎え入れた。
「ああ、おちびの服だ。納品のさいにはこの俺が、ひとつひとつ確認したからな」
「じゃあ、これは……服だったってことですね」
衣装室にしまわれているはずのそれらで、室内が鮮やかに彩られていた。
引き裂かれ、千切られて。
布切れに成り果てて。
細切れになった色達が床一面に重なり合う異様な光景は、声にならない絶叫を俺の脳へと叩きつけてくる。
無音のそれは、狂気の匂い。
「じ……じじい?」
そこだけ切り取られた異空間のような、大きな寝台。
全く乱れのない寝具の上に、うずくまるは小さな白い竜。
旦那は小さな両手で赤い格子模様の布を握りしめ、それに顔を埋めていた。
押しつけるように。
すがるように。
微動だにせず。
その布……姫さんが旦那に贈ったそれは、あの子がこの世界に落とされた時に身に着けていた異界の衣類。
その衣類を使って、姫さんは旦那に贈り物をした。
旦那は少々色褪せた生地で作られたそれを『宝物』だと言い大切に、大切にしていたのを俺は知っている。
「ヴェ……ヴェルッ……」
陛下はその場に、すとんと座り込んでしまった。
その背を流れる長い髪が色の洪水の中に、青を加えた。
どんなに多くの色があろうとも。
陛下の青はなにものにも染まらず混ざらず、そこにある。
「……だ……んな……」
消えたつがいの残した香りを、気配を、想いを求め。
無力な赤ん坊のように……尾で自分の身体を守るかのように丸くなり、『世界』を拒むその姿。
自分の傍らにつがいの居ない世界、その現実を拒否しているのかのような。
そこに居るのは、最強の竜ではなく……。
その姿を、これ以上見ていられなくて。
見てはいけない気がして。
俺は、目を閉じた。
「……陛下、私達は外でお待ちしています。行くわよ、ダルフェ」
カイユは深々と一礼し、俺の左腕を掴んで退室を促した。
俺の腕を掴むその手が、指が。
肉だけでなく心にも食い込んで。
俺を、支えてくれた。